判例・裁判例

判例・裁判例を扱った記事です。

2015年5月 6日 (水)

最高裁、責任無能力者の未成年者が他人に損害を与えたもののその態様が通常は人身に危険が及ぶような行為ではない場合、親権者に具体的に予見が可能であるなど特別の事情が認められない限り、監督義務を尽くしていなかったと判断するべきではないと判示

報道でも大きく取り上げられましたが、子供がサッカーボールを蹴って道にボールが飛び出してしまい、通りかかったバイクの老人がそれによって怪我をしてしまい、入院を経て、誤嚥性肺炎でなくなってしまったという事案について、親の監督責任が問われた損害賠償請求訴訟で、最高裁が一部認容していた原判決を破棄して請求棄却の自判を行いました。判決が出て1カ月たちますが取り上げます。

最高裁判所第一小法廷 平成27年4月9日判決 平成24(受)1948 損害賠償請求事件

民法により未成年者は責任無能力ですが、責任無能力者が損害を与えた場合には、監督義務者が監督義務を怠っていない場合以外、責任を負うことになっています。

第七一四条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

そしてこの監督義務者の責任は、立証責任が転換していることがハードルを上げることにつながり、事実上無過失責任の様相を呈してしまっていました。そのような判断の根底には、誰も賠償の責を負わないというのはおかしいと考えて、事実上、代位責任的に破断しているきらいがあるのですが、条文そのものは監督義務者の責任という形式自体は維持されています。

このような考え方には当然批判のあるところであり、監督義務を怠っていなかったとするのは酷ではないのか、どうすれば監督責任を果たしていたといえるのかということが指摘されることになっていました。

本件はそのような中、最高裁まで係属した事件ですが、大変、特徴的な事実関係がありました。

未成年者の行為はサッカーゴールにフリーキックをしたところ、道路までボールが転げ出てしまったというものでしたが、以下のような事実があったことが判示されています。

  • ゴールからさらにその先の学校の門までは10メートル
  • 門の左右にはネットが張られており、その外には1.8メートルの側溝
  • 本件では門の外にかかっている橋にボールが行ってしまい道路に転げ出てしまった
  • 道路の交通量は普段多くない

このようにボールが出てしまったことと、ちょうどバイクが通りかかったことは、かなり偶然性が高いといえます。

このような点をとらえて最高裁は、この行為を、通常は人身に危険が及ぶ行為ではないと評価をしまして、通常は人身に危険が及ぶ行為ではない行為から損害が発生した場合に監督義務を尽くしていたかの判断基準を以下のように述べています。

親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。

その上で、特別の事情があったとうかがわれないとして請求を棄却する判断をしています。

通常は人身に危険が及ぶ行為ではないのに、特別に予見される場合というと、未成年者が故意でやったことでそれを監督義務者が知っていたとかそういう極限的な場合ではないと該当しないように思われますので、監督義務者の責任についてかなり実質的判断をしたといえるように思われます。

ただ、報道ではこれで一気に流れがかなり変わるというような受け止め方がされていましたが、「通常は人身に危険が及ぶ行為ではない」の判断において、本件では単なる公園でのボール遊びとかよりはかなり偶然性を感じさせる要素が基礎になっていることから、果たして射程がどこまで広いのかは微妙な感じがします。

また、監督義務の判断を実質化させると、未成年者による行為であるというために、誰も賠償の責を負わないという事態が発生してしまうことからも、大変難しい問題です。立法措置を考えないうえでバランスを考えるならば、監督義務者の責任のハードル自体はやはり若干変えざるを得ないようにも思われ、そのような苦しい判断があるからか、この判例の判示はどうもすっきりしない書き方になっているきらいがあります。

監督義務を尽くしていなかったとすべきではないという一般論の後の当てはめ的な個所で、義務を怠らなかったとまで言ってしまっており、論の運びとの対応関係がやや不整合な感じを受けるところがあります。

最高裁も要旨の書き方や公表した判決文中の下線の引き方で事例判断であることを強調しており、あまり射程を広げて捉えないほうが無難な感じがする一件と言えるかと思われます。

 

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2015年4月26日 (日)

東京地裁、断熱フィルムに関して消費者庁が出した排除措置命令について、発売元の申立てにより執行停止を命じる

消費者庁が出した景品表示法の排除措置命令について執行停止が認められた初の事例が出たことが明らかになりました。

省エネが重要なテーマになって以降、断熱フィルムが注目されていますが、そのフィルムについて効果がないとして、排除措置命令を消費者庁が出しましたが、これに対して、製造販売元である翠光トップラインらが、取消訴訟、国会賠償訴訟を提起しましたが、その前に執行停止の申し立てをしていました。

東京地裁はこれを認め、執行停止を命じたことが明らかになりました。

消費者庁の発表

弊社に対する措置命令に関するお知らせ|株式会社 翠光トップライン

措置命令の取消訴訟等の提起のお知らせ|株式会社 翠光トップライン

東京地方裁判所による執行停止の決定に関するお知らせ|株式会社 翠光トップライン

同社によると決定の主文は以下の通りとされています。

主 文
消費者庁長官が平成27年2月27日付けで申立人株式会社翠光トップラインに対して行った不当景品類及び不当表示防止法6条に基づく措置命令(消表対第254号)及び同日付けで申立人株式会社ジェイトップラインに対して行った同条に基づく措置命令(消表対第255号)は、本案事件の第一審判決の言渡しまでその効力を停止する。

 

まだ本案の帰趨は定まっていませんが、活発化している消費者庁の権限行使に対して、事業者側の対応パターンの一つとして興味深い展開を見せているといえそうです。

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高松地裁、多胎妊娠で胎児1人の死亡が確認されたことから、残りの胎児を帝王切開して出産したところ、障害が残ったために提起された損害賠償請求訴訟で、請求全額を認容

出産事故で非常に判断の難しい事案について、判決が出たことが明らかになりました。

「帝王切開判断早すぎ」日赤に2億円の賠償命令 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2015年04月23日 07時41分

三つ子の胎児の1人が死亡後、帝王切開で出産した残る2人のうち長男(12)に重い障害が起きたのは医師の切開の判断が早すぎたためとして、高松市在住の両親と長男が病院側に介護費用など2億1147万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、高松地裁であった。

福田修久裁判長は両親らの主張を認め、病院を運営する日本赤十字社に請求全額の支払いを命じた。

判決によると、母親が高松赤十字病院(高松市)入院中の2003年2月、胎児1人の死亡が判明。医師の勧めですぐ帝王切開を受け、残る男女2人を妊娠30週と6日で産んだが、長男には重い脳障害が起き、常時介護が必要になった。両親らは12年9月に提訴した。

福田裁判長は判決で、3人の胎児が胎内でそれぞれ違う膜に包まれていた点を挙げ、当時の医学的知見ではこうした場合、「胎児死亡の他の胎児への影響は限定的とされていた」と指摘。長男の障害が妊娠32週以前の早産児に多いことを踏まえ、「脳障害予防の観点から可能な限り胎児の成長を待つべきだった」と述べた。

(略)

判決全文を見ていないので何とも言えないのですが、上記報道からうかがわれる限りでは、3名の胎児がいて1人が死亡している場合に、他の胎児を直ちに出産するべきであるかということ、その上で、生じた障害がこの早期の出産に起因しているのかが争点となった模様です。

報道によると、証拠調べの結果、当時の医学的知見では、胎児1人が死亡しても違う膜につつまれていた場合には他の胎児への影響は限定的であったということになり、過失があったと判断された模様です。医学の知識がないのでこの見解の当否がわからないのですが、大変重い判断であるということは言えそうです。なお、妊婦は当時29歳と別の報道では言及されています。

また、この訴訟では日赤側は、損害額についての反論としていなかったために、請求全額認容となったきらいがある模様です。損害額の認定は、裁判所が主張を待たずにできるはずのところではあるものの、実際のところ主張を待ってのところも多分にある部分です。

日赤側の訴訟方針も判断の難しいところがあったのかもしれません。

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2015年3月 1日 (日)

最高裁、職場におけるセクハラ行為で警告や注意を受けることなく懲戒したのを無効とは言えないと判断 懲戒を受けたことを理由とする人事上の降格事由も有効と判断

セクハラについての処分が争われて最高裁判例が出ましたので取り上げます。

かなり程度のひどいセクハラ態様であることから事例判断の側面が強く感じられますが、人事労務に関する非常に重要な判示が行われており、その点に注目して取り上げます。

最高裁判所第一小法廷平成27年2月26日判決 平成26(受)1310 懲戒処分無効確認等請求事件

すでに報道で明らかになっていますが、大阪市にある有名な水族館である海遊館の管理職の社員2名が派遣の女性従業員に1年以上にわたって執拗なセクハラ行為を行い、当該派遣労働者は派遣元を退職してしまいました。

運営会社である第三セクターである株式会社海遊館(上告人)は、セクハラ防止を重要課題と位置付けていたことから、本件で問題となったセクハラ行為より以前にセクハラを禁止する文書を出しており、様々な取り組みを行っていました。

退職した被害従業員からの申告によりセクハラの事実を把握した上告人は、セクハラをした社員(被上告人)を懲戒処分とし、出勤停止としました。

このときの就業規則の規定の適用関係は、禁止行為として定められていた「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」と懲戒事由としての「就業規則に違反したこと」であり、懲戒の種類は行為の軽重によって、戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇が定められていました。

上告人は上から二番目の重さの懲戒をしたということになります。

また、上告人は、職能等級制度を採用している模様ですが、その中の人事権としての降格の事由に懲戒処分を受けたときという定めがあったことから、上告人は被上告人を降格させたものです。

これによって当然、賃金の減少を招いたわけですが、被上告人から懲戒処分の無効確認請求訴訟が提起されました。

原審は、請求を認めて、懲戒処分を無効としました。

その判断の骨子は以下の通りになります。

  • 被害者から明確な拒否をされていないことから許されていると誤信していたこと
  • 事前に警告や注意等を受けていなかったこと

セクハラは客観的に判断されるものであり、受け手によって左右されるのは妥当ではないことは一般化してきていますので、セクハラに当たらないといっているのではなく誤診していたのでやむないという情状事由としての捉え方をしているとはしても妥当とは受け取れませんが、二点目には相当な重みがあります。

確かに懲戒の有効性判断においては、注意や指導をしてもそれでもなお懲戒事由該当行為をしたことという補充性の原則のようなものを求める考え方がありますので、その点に考慮をして重すぎると大阪高裁は判断したことになります。

しかし、最高裁はこの点について、以下のようにいきなり懲戒することを許容しました。

原審は,被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく,事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして,これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,上告人の管理職である被上告人らにおいて,セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記(1)のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え,従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや,本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており,従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において,上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば,被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。

上記のとおり、注意する機会がなかったということとと、さんざん取組をしていたので、具体的注意を待たずに知っていて当然という二点から根拠づけています。したがって会社が重要な方針として周知を図っていることで注意の機会が期待できないような場合にはいきなりの懲戒処分も許容されることがあるということになりましょう。

また、この件では、出勤停止の後に降格されていることから、二重処罰のようになり、その点から降格が無効と考える余地がありそうですが、この点についても最高裁は以下のように述べて有効としています。

本件資格等級制度規程は,社員の心身の故障や職務遂行能力の著しい不足といった当該等級に係る適格性の欠如の徴表となる事由と並んで,社員が懲戒処分を受けたことを独立の降格事由として定めているところ,その趣旨は,社員が企業秩序や職場規律を害する非違行為につき懲戒処分を受けたことに伴い,上記の秩序や規律の保持それ自体のための降格を認めるところにあるものと解され,現に非違行為の事実が存在し懲戒処分が有効である限り,その定めは合理性を有するものということができる。

判示から見る限りでは、上告人は職能等級制度をとっている模様ですので、懲戒処分を受けたことが職務遂行能力の欠如を意味するのかは若干疑問の余地はないではないところがあります。もっとも、懲戒されるような行為をすることは職場秩序まで含めて考えると職務遂行能力を欠いているといえないわけでもないように思えますので、そのような趣旨から最高裁は人事権としての降格事由を有効としています。

この降格についての判断は、重要な判断であり、職能等級制度について人事権の裁量の範囲を画する意味で本件を超えて通用する判示であるように思われます。

大変ひどい態様のセクハラであり、事案限りでも解決を図る必要は極めて高い件ではありますが、判示の内容はそれに限定するものではないことから実務に大変大きな示唆を与えるものではないかと思われます。

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大阪高裁、阪神バスの障害のある運転手が配慮したシフトを打ち切られたため、新シフトで働く義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審で和解が成立

このブログでは取り上げるのを失念しておりましたが、阪神バスの障害のある運転手が、障害に配慮したシフトを打ち切られたことから、新しいシフトで働く義務がないことの確認請求訴訟を提起して、第一審で新シフトが公序良俗に反するとして請求が認められた事件の控訴審で和解が成立したことが明らかになりました。

報道によると会社が配慮を続けるということを内容とする和解である模様です。

この件では訴訟に先立って、仮処分も申立てられており、勤務ごとの時間を14時間あけることも認められていましたが、第一審判決ではその内容は命じられませんでした。確認請求訴訟なのである意味当たり前ですが、仮処分でシフト作成についても介入があったという点できわめて衝撃的な事態であったわけですが、配慮をするという内容で終わった模様です。

もっとも、本件は阪神電鉄が分社化して阪神バスが誕生した際に、勤務作成上の配慮がなされなくなったというものであり、経緯からして合理性が難しかった点が伺われる事案だったというところも作用しているように思われます。

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2015年2月22日 (日)

最高裁、事前求償権を被保全債権とする仮差押えは事後求償権の消滅時効を中断する効力も有すると判示

保証人が主債務者の代わりに弁済した場合には、主債務者に対して求償権を取得しますが(事後求償権)、委託を受けて保証をした場合には、弁済の前に求償権を行使することができます。これを事前求償権といいますが、判例は事後求償権と事前求償権は別の権利としています(最判昭和60年2月12日民集39巻1号89頁)。

保証委託を受けて保証をするのは、いわゆる機関保証であることが多いことになりますので、業としてやっている以上、事前求償権からしっかり行使してくることが考えられます。実際には事前求償できるくらいならそもそも主債務者が弁済できるはずですので、仮差押えなどが限度かもしれませんが、とにかく事前旧称から何らかの動きをするということはよくあるわけです。

そのような場合で、事前求償権に基づいて仮差押えをしていたが、事後求償権に基づいての別途の行為はしていなかったまま、かなり経過してから保証人が求償権の行使及び連帯保証人に対して請求をしてきたという事例で、弁済からは時効が成立するだけの期間が経過してしまっていたために時効消滅したのではないかという事件で判例が出ました。

最高裁判所第三小法廷 平成27年2月17日判決 平成24(受)1831 求償金等請求事件

上記の昭和60年判例の別個の権利というところを重視するなら、確かに時効消滅してしまったということになりそうです。

しかし、最高裁はそのようには考えず、実質論を展開し、事前求償権についての仮差押えは事後求償権の消滅時効も中断する事由となるとしました。

事前求償権は,事後求償権と別個の権利ではあるものの(最高裁昭和59年(オ)第885号同60年2月12日第三小法廷判決・民集39巻1号89頁参照),事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから,委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば,事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。また,上記のような事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば,委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても民法459条1項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは,当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当でない。

要するに、事前求償権について行使すれば事後求償権についても行使したとしてもいいではないかということで、その肝は、事前求償権で民事保全をしておいたのにまた事後求償権についてもう一度繰り返さないといけないのだとすると、二度手間ですし、極めて不可解な行為を強いることになるからということでしょう。

事前求償権について仮差押えをしたら、おそらくそれでひとまずはよしとしているのが実務的な取扱いではないかと想像されますので、そういう意味では現実的な対処ということになりましょう。もっとも事前求償権がどれほど活用されているのか自体がそもそもわからないところがありますので、そうだとすると時効が成立しそうになってしまったかなりレアケースの場面だからこそ下された判断なのかもしれません。

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2015年1月12日 (月)

東京地裁、職務発明規程について策定及び改定について従業員と協議をしておらず、対価と支払方法について具体的に定めている部分の従業員に対する開示がなく、対価の額の算定について発明者の意見聴取が予定されていない内容である場合に、当該規定に依拠して対価を支払うことは不合理と判断

昨年の裁判例でいまさらですが、重要な点を含んでおりますので取り上げます。

職務発明については裁判が何件も起こされたのちに法改正が行われて、現在更なる法改正が検討されていますが、現在は社内で発明規定を持ってそこで対価を定めており、それに基づいて対価を支払うことは不合理でなければその規定通りの対価を支払えばよいという内容になっています。

この職務発明の規定については就業規則の不利益変更の法理も参考にしつつ、微妙に表現が異なっていることから、その違いに意味を持って解釈されるべきと考えられているところでしたが、特許法35条改正後に職務発明規定に基づく支払が合理的かという点から問題となった初の事例と思われる裁判例が出ておりましたので取り上げます。

第35条(職務発明)

(略)

3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。
5 前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

本件の被告である会社は野村證券です。

本件の発明の内容等は省略しますが、本件では改正後の特許法35条に基づいて職務発明規定を改定していました。

その内容は、「発明又は考案に関する規程」で報奨金を支払いと定めており、報奨金の内容は「報奨金に関する定め」で定めておりその内容は下図のようなものでした。

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しかし、本件では、この規程に従って支払うことは許されないという主張がなされて、特許法35条3項4項の問題となったものです。

東京地裁は、判断基準として上記の特許法35条4項を指摘したうえで、野村證券におけるこれらの規程について以下のような事情を指摘しています。

① 被告は,被告発明規程の策定及び改定につき,原告と個別に協議していないことはもとより,他の従業員らと協議を行ったこともうかがわれないし(上記(1)ア),② 被告において対価の額,支払方法等について具体的に定めているのは被告発明規程2(「報奨金に関する定め」のこと)であるが,これは原告を含む従業員らに開示されておらず(同イ),③ 対価の額の算定に当たって発明者から意見聴取することも予定されていない(同ウ)というのである。

さらに,④ その他の事情についてみるに,まず,対価の支払に係る手続の面で,被告において上記①~③に代わるような手段を確保していることは,本件の証拠上,何らうかがわれない。

以上のように指摘して、本件の規定に基づいて対価を支払うことは合理的とは言えないと判断しています。

上記判断のポイントは、手続きについての検討に注目しているというところであり、規定の内容自体の合理性ではないという点だと思われます。

就業規則の変更に関する判例法理やその後条文化された労働契約法の条文の定め方との違いからもこのような検討の違いは導かれるものと思われます。

実務的には、職務発明規程の整備における社内手続きの進め方と、その後の周知の仕方、具体的な適用場面における不服申し立ての手続き整備などが重要ということになりましょう。

現在法改正が検討されていることから、本裁判例の意義は限定的になると思われますが、改正後の特許法35条に関連する裁判例として重要な意義を持つものと思われます。

なお、規定に基づく対価の支払いが合理的とは言えないとされた場合には、35条5項に基づいて対価が支払われることになり、本件も続いてこの規定に基づく対価の検討に移っています。しかし本件においては、最終的な発明対価の請求は棄却されています。それは、本件発明に基づいて、野村證券に利益が発生していないという事実認定に基づくものであり、そもそも論的な結末に終わっている模様です。

裁判例情報

東京地方裁判所平成26年10月30日判決 平成25(ワ)6158 職務発明対価請求事件

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2014年12月23日 (火)

福岡地裁、刑事弁護事件で別の刑事弁護人を選任したため、着手金の返還を請求した訴訟で、請求を認容してアディーレ法律事務所に着手金の返還を命令

弁護士事務所に着手金の返還を命じるという一見すると何が起きたのか疑問に思えてしまう判決が出ましたので取り上げます。

アディーレ法律事務所に返還命令 弁護の「着手金」 - 産経ニュース 2014.12.16 15:38

法律事務所に依頼した刑事弁護を中途解約した福岡県の男性が、支払った着手金45万円の返還に事務所側も合意したにもかかわらず返金されないと主張した訴訟の判決で、福岡地裁は16日、事務所側に返還を命じた。

事務所は債務整理を多く手掛ける「アディーレ法律事務所」(東京)。

訴訟でアディーレ側は「返金は、新しく選任された別の事務所の弁護士が謝罪する条件で合意した。謝罪がない」と主張したが、永井裕之裁判長は判決で「アディーレの弁護士が送った書面には謝罪の条件はない。返金の合意は成立している」と指摘した。

判決によると、男性と、逮捕された長男は11月7日、異なる弁護士にそれぞれ刑事弁護を依頼した。男性はアディーレ側への依頼をキャンセルし、支払い済みの計130万円の返還を求めたが、うち着手金分は返還されなかった。

長男が刑事弁護人を必要とする事態になったところ、原告と長男とで別途、刑事弁護人を依頼してしまったため、原告はアディーレ法律事務所に対する依頼をキャンセルして着手金の返還を求めたところ、謝罪が条件だったのにそれがされないということで返還に応じなかったため、訴訟になってしまったという事件です。

アディーレの弁護士を弁護人選任までしたのかが定かではないのですが、結局、別の刑事弁護人がついたため、アディーレは弁護活動としてはそれほど行っていないと思われますが、その余は返還されたようですが、着手金分の返還がなされなかったため訴訟になった模様です。

弁護士への委任契約は、着手金は理由のいかんを問わず返還しないとかそういう契約条項になったりしているものですが、なぜか返還に関する合意の解釈問題になってしまい、新しい刑事弁護人の謝罪が条件であるのにそれがないと条件が成就していないという抗弁がアディーレから出されるという不思議な経緯をたどった模様です。

刑事弁護人が重複してしまいどちらかが辞任するということはままあるような気がしますので、謝罪をするなどの事態は考えられないような気がそもそもするのですが、福岡地裁はそもそも書面にそんな条件は書かれていないとして、条件になっていないと端的に解した模様です。

返還するのが当然なのかはともかく、明らかになった事実からは当たり前といえば当たり前のような結論になっていますが、そもそもなぜこのような紛争になったのかが極めて不思議である一件と感じられます。

裁判例情報

福岡地裁平成26年12月16日判決

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2014年12月14日 (日)

最高裁、相続開始後に相続財産の投資信託受益権から元本償還金及び収益配当金が発生して被相続人名義の口座に振り込まれたとしても、当然に相続分に応じて分割されて法定相続人に帰属することはないと判示

相続発生によって相続財産中に投資信託が含まれていた場合に、預金と同じように当然に相続人に帰属することはないということは判例があり、以下の通り本ブログでも取り上げています。

最高裁、共同相続された委託者指図型投資信託の受益権及び個人向け国債は、相続開始で当然に相続分に応じて分割されることはないと判示 | Japan Law Express

しかし、投資信託の受益権そのものは上記のとおりですが、そこから配当金や元本の償還などで金銭債権が発生したらどうなるのでしょうか。

その点についての判例が出ました。

最高裁判所第二小法廷平成26年12月12日判決 平成24(受)2675 相続預り金請求事件

しかし、受益権の一部が金銭の請求権を含んでいるというだけですので、指図やガバナンスに関する不可分の投資信託の権利と表裏一体であるわけです。

したがって、全体として不可分ということになり、当然に相続分に応じて分割されるわけはないことになります。

この判例もその旨を簡単に述べています。

新しい点についての判示ですが、既存の判例理論から行くと当然の帰結であると思われます。

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最高裁、共同相続された委託者指図型投資信託の受益権及び個人向け国債は、相続開始で当然に相続分に応じて分割されることはないと判示

今年の2月の判決を今更ながら取り上げます。すでに取り上げたつもりでいたのですが、関連する12月の判決の時期を書こうと検討したところ、2月の判決についてまだ記事にしていなかったことに気づきまして、合わせて取り上げようと思います。

相続が発生した場合に相続財産はいったん共有になりますが、物権なのか債権なのかによってどのような状態になるのかはどのような財産であるかによって異なります。

債権の場合には準共有になりますが、判例はここから多数当事者間の債権債務関係になるとしており、すると給付が不可分の場合には不可分債権になり、給付が可分の場合には可分債権になります。その結果、債権の中でも財産の種類ごとに話が違ってきてしまうのです。

銀行預金は金銭債権ですので、給付は可分ということになります。ここから、預金は遺産分割の対象になる相続財産に入らず、相続開始時点で当然に分割して相続人に帰属するとしています。

もっとも、銀行実務は相続人の一部からの払い戻し請求には応じないので、この点は現実は若干異なるのですが、少なくとも実体法的には上記のようなことになります。

すると、給付が可分であれば、共有にならずに相続人に帰属していることになりますが、この給付が過分ということは実はそれほど簡単ではなく、分割できそうなのだがどうなのだという財産が増えてきており問題になることが出てきました。

特に投資信託が問題となることが多くなってきています。これは口数で購入するものであり、かつ、配当金は完全に現金になってしまうことから可分に見えなくもないことが影響しています。

この点、最高裁が投資信託の受益権と国債について、預金と同じ扱いなのか、共有になるのかについて判示をした判例が出ています。

最高裁判所第三小法廷平成26年2月25日判決 平成23(受)2250 共有物分割請求事件 民集第68巻2号173頁

この事件で問題となったのは、1 委託者指図型投資信託の受益権、2 外国投資信託にかかる信託契約の受益権、3 個人向け国債の3つが共有になっているのかという点です。

原告は、他の相続人を被告として、上記財産は共有になっているという理解の下、主位的に共有物分割を請求、予備的に共有でないなら名義書き換え手続きを行うことを請求したところ、原審は準共有ではなく相続人に帰属しているとして主位的請求を却下して、予備的請求も権利がないとして棄却したので上告受理申立てがされたものです。

最高裁は以下のように述べて、上記の財産については準共有になるとしました。

1 投資信託受益権については

本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載3及び4の投資信託受益権は,委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ,この投資信託受益権は,口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。

としました。上記の前に株主権について言及しており、要するに株主権と同じように金銭債権だけではなく、ガバナンスに関する権利と一体となっている以上、それらを分割することはできないという点に根拠を求めています。

2 外国投資信託については、外国のものということで内容が不明確であるのですが、上記の投資信託と同じに会する余地が十分にあるとしています。この点は理由があまり説得的には書かれていないのですが、同じものだろうということだと思われます。

3 個人向け国債については、さすがにガバナンスに関する権限等はないため、分割できそうにも考えられますが、最高裁は一口1万円である点に注目しています。

個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ,その権利の帰属を定めることとなる社債,株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は,上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条),取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も,上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり,このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。

要するに1万円以下に分割できないので、法定相続分で分けることができないかもしれないので、可分ではないとしました。そうだと言われればそうとも思えますが、微妙といえば微妙にも聞こえるところです。

 

もっとも国債はともかく、投資信託については、実務上も有力な見解として上記のような考え方がされていました。したがって、この判決はその点では有力な見解を最高裁も認めたというところに尽きるように思われますが、国債に関するくだりから、相続財産に入るかどうかについて多数当事者間の債権債務関係の条文に照らして機械的に考えるという姿勢が貫徹されているということが改めて分かります。

実務的にも理論的にも重要な判決であると思われます。

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