判例・裁判例

判例・裁判例を扱った記事です。

2009年11月 2日 (月)

東京地裁、ライバル会社と業務提携している会社に転籍するための一斉退職を背信的行為として退職金請求を棄却

有線放送は非常に特徴的な業界で、もとより仁義なき戦いを繰り広げているのですが、その紛争のうちの一つである社員の大量引き抜きに関連する退職金請求事件で判決が出ました。

訴えていたのは、業界2位のキャンシステムを退職して、最大手であるUSENと業務提携している会社に入社した社員たちであり、314人がキャンに退職金を請求していたものです。

東京地裁判決平成21年10月28日

東京地裁は、一斉退職を背信的行為として、退職時期が早かった289人について、重大な損害を与えることを意図しながら共謀して一斉退職したとして、懲戒解雇事由に該当するとして、退職金請求を棄却しました。

時期が異なる残りの原告については、上記のような事情が認められないとして請求を認容しています。

一斉退職:「背信的行為」退職金請求棄却 東京地裁判決(毎日新聞2009年10月29日)

有線放送業界2位の「キャンシステム」(東京都新宿区)を一斉退職し、業界最大手の「USEN」(港区)と業務提携を結ぶ会社に移った314人が、キャン社に退職金支給を求めた訴訟の判決で東京地裁は28日、25人を除く原告の請求を棄却した。白石哲裁判長は「一斉退職は著しく信義に反する背信的行為」と述べた。

(略)

判決は原告のうち289人について「キャン社に重大な損害を与えることを意図しながら共謀して一斉退職した。懲戒解雇理由に当たり退職金を受け取る権利はない」と判断。退職時期が遅かった残り25人は「共謀しておらず引き継ぎもしている」と訴えを認めた。

ライバル会社による引き抜きの論点は、労働者には職業選択の自由がある上、民法を見ても辞職の自由があります。さらに使用者にも人材獲得に関する自由競争があることから、会社に重要な人材でも引き抜いただけでは不法行為にならないのは有名なことです。

そのためにかなり悪質な行為でないと不法行為とはなりません。

しかし、本件では問題となっているのは、転籍した労働者であり、不法行為の成否が問題となっているのではなく、退職金の請求をしているというものです。

キャン社の就業規則の内容は判例全文を見ていないのでわからないのですが、標準的な内容のものを有しているでしょうから、故意に会社に損害を与えることは当然に含まれるでしょう。よって退職金が発生しないという結論を導くことは、上記のような事実関係に照らすと可能であるように思えます。

悪質な引き抜きは不法行為になりますが、それに応じて退職する側は、不法行為になるとまではいえないでしょう。

もっとも競業避止義務の問題はありますので、同義務が肯定されるような労働者であれば責任が生じることになります。よって労働者側に完全に何の責任も生じないというわけではないと考えられますが、辞職の自由、職業選択の自由から、旧使用者に対する責任が生じるのはよほど程度のひどい場合になることになると思われます。

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2009年10月29日 (木)

大阪高裁、マンション賃貸借の更新料を有効と判断

最近、判例が相次いでいる熱い分野である建物賃貸借の更新料の有効性の論点ですが、先日更新料を無効とする判断をした大阪高裁において、今度は有効とする判断が出されました。

無効とする判断が相次いでおり、流れができつつありましたが、流れを食い止める方向に作用する一石が投じられました。

賃貸マンション:更新料は「適法」 大阪高裁、異なる判断(毎日新聞2009年10月29日)

滋賀県野洲市の賃貸マンションを約6年半借りた男性会社員(33)=大阪市=が入居継続時に支払う更新料計26万円の返還を貸主に求めた訴訟の控訴審判決が29日、大阪高裁であった。三浦潤裁判長は「更新料は借り主にとって一方的に不利益とはいえず、消費者契約法に違反しない」と述べ、更新料を適法とする判断を示した。(略)

更新料について、1審判決は「賃料の一部前払いとしての性質がある」として適法と認定。これに対し、三浦裁判長は「賃貸借期間が長くなった際に支払われるべき対価の追加分ないし補充分」との判断を示し、「貸主にとって必要な収益で、更新料がなければ賃料が高くなっていた可能性がある」と指摘した。

(略)

まだ判決全文を確認できていませんが、上記報道からは追加の対価という認定をされた模様です。

これまで更新料を無効とした判決では、貸主側の主張で色々な対価であるとされていましたが、どれも否定されていました。

詳しくは以下のエントリーをご覧ください。

賃貸借の更新料を無効とした京都地裁判決全文が公開される(2009.08.17)

更新料を無効とした大阪高裁判決の検討(2009.09.03)

これらの裁判例で対価性を否定したのもどれも微妙な判断であるのは確かなので、評価がひっくり返ったとしてもおかしくはないのですが、どう判示しているのかについて確認したいと思います。

上記報道からははっきりしませんが、この賃貸借の特有の事実によって判断が変わったということも考えられないわけではないですが、一般的には定型的なフォームで行われていると思われますので、法的評価が一変したのではないかと思われます。

この判決に対しては借主側が上告するとのことですので、最高裁の判断が待たれます。

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2009年10月26日 (月)

鳥取地裁米子支部、パワハラを受けてうつ病になったとして、勤務先とパワハラをしたとする上司を訴えた訴訟で、慰謝料などを認める

パワハラを受けてうつ病になり、休職をしてその後、病気休職の期間が長くなったことから退職した(病気休職のくだりは報道による事実関係から推認して補ったものです)という事実関係で、退職した元社員が、パワハラをしたと主張する上司と勤務先を訴えた事件で判決が出ました。

元社員は退職による逸失利益まで含んでのことだと思いますが5000万円を請求していたのですが、鳥取地裁米子支部は、パワハラを認めつつも退職との因果関係を否定、慰謝料など330万円の認容にとどまりました。

パワハラでうつ病、慰謝料命じる 「上司の行為で発症」認定(47NEWS)

上司のパワハラでうつ病になり退職に追い込まれたとして、鳥取県米子市の50代女性が、勤務先だった富国生命保険(東京)と元鳥取支社長らに5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、鳥取地裁米子支部は21日、慰謝料など330万円の支払いを命じた。

村田龍平裁判官は判決理由で「女性のうつ病は上司の配慮を欠いた行為がきっかけで発症した」と認定したが、退職については因果関係を認めなかった。

判決によると、上司の元鳥取支社長や元米子営業所長は2003年、ほかの社員がいる前で仕事上のことで女性を問いただすなどした。女性は同年7月、ストレス性うつ病と診断され、休職を経て、05年に自動退職となった。

(略)

具体的な態様がよくわからないのですが、部下を問いただすやり方によってはパワハラになるという判断が下されたことになります。何か意図のあるよほど威圧的なものだったならパワハラでしょうが、この報道ではよくわからないのでなんともいえません。

事実認定以外のポイントとしては、パワハラに関して使用者の責任を認めている点に注目されます。当然ですが安全配慮義務のようなことだと思われますが、使用者責任と安全配慮義務のどちらの構成をしているのかも報道からはわからないので、追って確認したいと思います。

セクハラなどの裁判例とパラレルに考えると、安全配慮義務的な判断になるのではないかと思われます。

次に、退職との因果関係を否定した点が注目されます。これは単純に考えるとよくわからないのですが、ほかに何か事実があるのかもしれません。この点も追って検討したいと思います。

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2009年10月21日 (水)

男女差別訴訟の兼松事件で最高裁が上告を棄却 差別を認めた控訴審判決が確定

労働法の雇用差別の典型的な問題で、コース別採用が男女差別であると主張された兼松事件で、最高裁が上告を棄却したことが明らかになりました。

男女賃金格差訴訟、兼松の敗訴確定(日本経済新聞2009年10月21日)

男女コース別人事による賃金格差は違法として、兼松の女性社員ら6人が同社に賃金の差額など計約3億8千万円の支払いを求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は20日、社員側と兼松の双方の上告を棄却する決定をした。4人について賃金差別を認め計7250万円の支払いを命じた二審・東京高裁判決が確定した。

(略)

確認できてはいないのですが、三行半で終わったものと思われます。

労働法では重要な事件で最高裁が原審をそのまま支持して終わることが多いので、特に珍しくはないのですが、ほかの分野なら判決が書かれるような重要な事件です。

この事件はコース別採用が男女差別であるかというもので、野村證券事件という有名な裁判例があります。それによると、男女雇用機会均等法が努力から義務になって以降は、男女のコース別採用は公序に反するものになっており、コースを変われる制度が用意されており、それが合理的な内容であれば適法となります。

野村證券事件もこの兼松事件も、コースを変われる制度は用意されているのですが、やたらと高いハードルが用意されており、実質的には無理というようなものでした。

この点を重視して、違法であるという判断を控訴審はしており、最高裁はこれを是認したことになります。

事例判断に過ぎないために最高裁が一般論としての判示をしませんでしたが、コース別人事管理に関する重要な判例であると思われます。

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2009年10月16日 (金)

最高裁、米ジョージア州港湾局極東代表部から解雇された者が雇用契約上の地位確認等を請求した事件で制限免除主義を採用 主権免除を認めた原審を破棄

東京地裁、主権免除に関して制限免除主義を採用(2005.09.30)の上告審判決が出ました。(控訴審判決を取り上げるのは失念しておりました)

最高裁判所第二小法廷平成21年10月16日判決 平成20(受)6 解雇無効確認等請求事件

ジョージア州港湾局極東代表部に雇用されていて解雇されたものが雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを求めた事件で、被告に主権免除が認められるかが問題となった事件です。

最高裁はすでに主権免除に関して、最判平成18年7月21日民集60巻6号2542頁【関連エントリー:最高裁、主権免除に関して判例変更 諸外国と同じく制限免除主義を採用(2006.07.21)】で制限免除主義に判例を変更しています。

しかし、このジョージア州港湾局事件では、第一審では上記のエントリーで取り上げたとおり、制限免除主義を採用したのですが控訴審判決でひっくり返され請求却下になっていました。

控訴審判決は平成18年判決の後なのですが、一見すると判例に従わず、従来どおりの主権免除を認めたのには理由があります。

制限免除主義のもとでも外国国家との雇用関係のうち採用、雇用の更新、復職などは主権免除となるという国際慣習があるとされているのですが、控訴審はこの請求は、復職に関するものであるので、平成18年判決のもとでもなお主権免除になると判断したわけです。

最高裁はこれに対して、この事件は復職ではなく、主権免除条約に定められている安全保障に関係する場合のみに免除が認められる「解雇または雇用契約の終了に係るもの」であるとしました。

控訴審は国際慣習を参酌したわけですが、最高裁は国際慣習における当てはめに誤りがあるとしたわけです。

しかし、手続法は手続地法に依拠する以上、国際慣習が直接適用されるわけではありませんので、そこで最高裁はこの件での雇用契約の内容を検討をして、平成18年判決が主権免除が認められないとした「私法的ないし管理業務的行為」に該当すると判断しています。

よって、上記の国際慣習に関するくだりは結論を導くための直接必要な論理にはなっていません。控訴審の依拠した構成をしてもなお主権免除が認められる場合ではないということを言及しているに過ぎないと思われます。

したがって、この判例の意義は、主権免除が認められる「私法的ないし業務管理的な行為」の具体的な内容についての判断であるところにあると思われます。

しかし、労働法の観点から考えると、労働契約上の地位の確認といったらまさに復職を請求しているものです。ここから考えると、最高裁の言っていることはおかしいように思えてきます。

しかし、これは日本では司法的には解雇の金銭解決が認められていないため、仕方なく復職を前提とした請求を立てている面があり、この実質に配慮をした判断を示したといえるでしょう。

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2009年10月 7日 (水)

最高裁、貸金業者が借主の期限の利益喪失を主張することが信義則上許されない場合について二件の事例判断

何だかわからないタイトルで申し訳ありません。

サラ金の過払金請求で、請求を受けた貸金業者が、実は借主はすでに期限の利益を喪失しており、通常の分割弁済のつもりで返還してきたのは元本と遅延損害金であり、過払金は生じていない(または請求額よりも少ない)と主張した事案がいくつか出てきています。

この貸金業者の主張に対して、借主は期限の利益喪失とされる後でも、貸金業者の態度がはっきりしなかったので、通常の弁済であると信じていたのに、過払い金請求の段階になって言い出すのは信義則に反すると抗弁しています。

このような論点にかかわった事件で微妙に事実関係が異なる二件について最高裁は同日に判決を出して、結論をまったく逆にしました。

比較するとわかりやすいように思えますので、まとめて取り上げます。

最高裁判所第二小法廷平成21年09月11日判決 平成19(受)1128 貸金等請求本訴,不当利得返還請求反訴事件

最高裁判所第二小法廷平成21年09月11日判決 平成21(受)138 不当利得返還請求事件

便宜上、以下では上の方を第1事件、下の方を第2事件と呼びます。

第1事件では、期限の利益を喪失してからも貸金業者は特段の通告をせず、一括の弁済を求めることもなく、分割の弁済を受け続けたのですが、領収書兼利用明細書には、遅延損害金と元本に充当することがかかれており、期限の利益を喪失していることが実はわかるようになっていたという事実がありました。また、期限の利益を喪失しているにもかかわらず新たな貸付をしているという事実もありました。

しかし、最高裁は、一括弁済を求めるか、元本と遅延損害金の一部弁済を受領するかは貸主の自由であるとして、期限の利益喪失の主張をしないと思わせるような行為をしたとはいえないとしました。

追加の貸付についても、貸すかどうかは、同じく貸主の自由であるとして、従前の態度に反する行動とはいえないとしました。

以上を指摘して、期限の利益喪失を主張することが信義則に反して許されないとまではいえないとしました。

これに対して第2事件では、期限の利益喪失後の貸金業者の行動が異なります。

第2事件では、利息29.8%に対して遅延損害金36.5%と大きな違いがあるのですが、期限の利益喪失後でも毎月15日までに支払えば、遅延損害金が29.8%になるという約定があり、期限の利益を喪失していることがそもそも気づきにくくなっており、加えて期限の利益を喪失していた状況下における借主からの弁済額の問い合わせに対して、29.8%に依拠して計算した金額を答えたりしていました。

また、領収書兼利用明細書には、元本と利息に充当すると明記されており、遅延損害金も含まれていることがかかれていませんでした。

以上のような事実関係があり、期限の利益を喪失することはないと誤信しても無理からぬものがあるとして、貸金業者の主張を信義則で遮断しました。

本件は貸金業者が期限の利益喪失を主張できるのかについての重要な判断基準を提示する事例判断であると思います。

過払金請求は、社会問題にもなっている模様ですが、一方で不当利得法などの分野で、色々な判例を生み出しており、極めて深度化が進んできていることが改めてわかる一件です。

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2009年10月 6日 (火)

最高裁、事後的に過払金が生じたことだけをもって直ちに不法行為を構成するということはできないと判示

今年の9月の前半にはサラ金の過払金関係の最高裁判例が連続して出されたのですが、どれも理由をあまり述べずに短いものばかりです。

今回取り上げるのは、過払金を受け取ったことが不法行為になるかという点についてのものです。

判例により、みなし弁済の適用が認められず、過払金が生じていたことになると、不当利得になりますが、みなし弁済の適用があると認識してその認識を有するにいたったことにやむをえないといえる特段の事情がない限り、民法704条の悪意の受益者と推定され、利息をつけて過払金を返還しないといけなくなります。

第704条(悪意の受益者の返還義務等)

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

これだけで過払金問題の財産的解決には十分に思えますが、不当利得返還請求権には消滅時効がありますので、10年で消滅してしまいます。そこでかなり昔の過払金は不当利得構成では消滅してしまいます。

そこで過払金の受領を不法行為と構成してまだ時効が来ていないと主張して返還を請求した事件で最高裁判決が出ました。

最高裁判所第二小法廷平成21年09月04日判決 平成21(受)47 不当利得返還請求事件

最高裁は、結果的に多額の過払金が生じても、そのことのみをもって不法行為を構成するということはできないとしました。

不法行為を構成するのは、特段の事情がある場合としており、以下のように言及しています。

不法行為を構成するのは,上記請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるものと解される。この理は,当該貸金業者が過払金の受領につき,民法704条所定の悪意の受益者であると推定される場合において
も異なるところはない。

みなし弁済の要件を満たさないことは後からひっくり返されてしまった感じが強く、悪意の受益者ということも無理があるくらいですので、不法行為だったと評価するのはもっと難しい感じがします。よってこの判決のように判断するのももっともだと考えられます。

ここのところ、過払金返還請求を制限する判例が相次いでいますが、ゆれ戻しというよりは、当然の限界を確認しているに過ぎないと思われます。

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2009年10月 1日 (木)

東京地裁、NowLoading株主提起の取締役会議事録閲覧謄写許可申立てを却下

NowLoading、取締役会議事録の閲覧謄写許可請求を起こされる(2009.04.25)の続報です。

東京地裁は申立てを却下したことが、NowLoadingのリリースで明らかになりました。

株主による取締役会議事録閲覧謄写許可申立て却下決定に関するお知らせ

上記リリースでは理由についてはまったく触れられていません。

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東京地裁、トライアイズ監査役が申立てた水から提起した株主総会決議取消訴訟の弁護士費用を監査費用として支払いを求める仮処分申立てを却下

トライアイズ監査役、自ら提起した株主総会決議取消訴訟の弁護士費用を監査費用として会社に支払を求める仮処分を申立て(2009.08.01)の続報です。

東京地裁は9月25日に決定で申立てを却下したことがトライアイズのリリースで明らかになりました。

仮処分命令の申立ての却下に関するお知らせ

上記リンク先のリリースによると、却下の理由は仮払いの必要性の疎明がないということとされています。

その内容は、監査役にとっての必要性だけではなく、支払いを受ける弁護士にとっての支払いを受ける必要性の疎明も必要であり、それがないとしていました。興味深い判断であると思われます。

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2009年9月29日 (火)

最高裁、過払金充当合意がある金銭消費貸借の場合でも、貸金業者は過払金発生時から悪意の受益者となると判示

貸金業者が過払金の返還する際に、利息を付する必要がでてくる民法704条の「悪意の受益者」にいつからなるかについては、最判平成19年7月13日民集61巻5号1980頁が、貸金業者がみなし弁済の適用があると認識しており、かつ、そう認識を有するに至ったことについてやむをえないといえる特段の事情があるときでない限り、悪意の受益者と推定されるとしています。

この過払金が生じたらその時点から原則悪意の受益者と推定されてその時点から利息を付さないといけないことは、金銭消費貸借の基本契約中に過払金を後の金銭消費貸借に充当するというような過払金充当合意がある場合でも異ならないとする判決が出ました。

最高裁判所第二小法廷平成21年09月04日判決 平成21(受)1192 不当利得返還請求事件

この判例は理由を述べていないのですが、単純に考えると、充当するにしても利息が生じなくなるというものではないでしょう。むしろ債権が生じているわけですから、充当するにしても利息が付いた過払金を充当するのが正当と思われます。

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2009年9月25日 (金)

京都地裁で再びマンション賃貸借の更新料を消費者契約法に反して無効とする判断

賃貸借の更新料を消費者契約法に照らして無効とする判断が再び京都地裁でしめされました。

賃貸「更新料」は無効、家主に返還命令…京都地裁(読売新聞2009年9月25日)

賃貸住宅の契約更新の際に支払いが求められる「更新料」を巡り、京都市内のマンションを借りていた熊本県と東京都の女性2人が、それぞれ家主側に支払い済み更新料(22万8000円と11万6000円)の返還などを求めた2件の訴訟の判決が25日、京都地裁であった。

滝華聡之裁判長は「更新料を定めた契約条項は、消費者の利益を一方的に害しており、消費者契約法に反して無効」として、双方の家主側に全額の支払いを命じた。家主側は控訴する方針。

(略)

まだ全文を確認していませんが、判断はこれまでの裁判例と同趣旨であるとの報道もあります。

京都から更新料無効の波が起きていますが、これが完全に確たるものになるかは最高裁の判断が注目されます。先日の大阪高裁判決が上告されたと聞いたのですが、もしそうならきわめて意義の大きなものになります。

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2009年9月24日 (木)

最高裁、宗教法人の所有する土地の明け渡しを求める訴えが法律上の争訟にあたらないとして不適法とする一方で興味深い判示も行う

民事訴訟法の基本的な論点ですが、法律上の争訟の問題があります。

そのうちの一つに、権利義務に関する争訟でも前提として宗教上の教義などに関する判断が必要になる場合にはすべて法律上の争訟にあたらず、請求は却下されるというものがあります。

これは蓮華寺事件以来、判例の扱いとしては確定しているものです。

ちなみに、教義が前提問題となる攻撃防御方法が出てくるのが、請求原因でも抗弁でも一律に訴え却下になるというところに特徴があります。

さて、このようなことが問題となるのは宗教法人の内部紛争が大半の場合なのですが、このたび最高裁で宗教法人が擯斥処分をした住職に土地の明け渡しを請求したという典型的な事件で最高裁判決が出ました。

最高裁判所第三小法廷平成21年09月15日判決 平成20(受)1565 土地明渡等,代表役員の登記抹消手続請求事件

この事件では、宗教法人側は「宗旨又は教義に異議を唱え宗門の秩序を紊した」という事由で処分を構成しているため、教義に立ち入らなければいけないとして、法律上の争訟にあたらないと当たり前の判断がされています。

これだけだと、過去の判例どおりの判断なのですが、この事件には注目される箇所があります。

この事件では、住職が本来は管長しか授けられない法階を勝手に授けたことが処分の直接の理由となっているのですが、この宗教法人には「宗制に違反して甚だしく本派の秩序を紊した」という懲戒規定もあることから、最高裁は以下のように述べています。

包括法人において,法階は,管長が叙任することとされているのであるから(管長及び管長代務者規程3条1項6号,法階規程1条2項),被上告人の上記行為が上記剥職事由に該当するか否かが問題となっているのであれば,必ずしも宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断する必要はなかったものと考えられる。

しかし、宗教法人は上記の「宗旨又は教義に異議を唱え~」のほうを使っているので、それならば法律上の争訟にはあたらないとしたのでした。

宗教団体の内部紛争になると一律に法律上の争訟に当たらず、私法上の救済がないかの様な状況が続いてきましたが、本件では紛争の原因と当該法人の有している内部規定によって、司法審査の対象となることを示したといえ、意義深いことなのではないかと思われます。

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2009年9月 3日 (木)

更新料を無効とした大阪高裁判決の検討

高裁レベルではじめて、賃貸借の更新料を無効と判断した大阪高裁平成21年8月27日判決の簡単な検討をしてみようと思います。

再掲になりますが、判決全文は京都敷金・保証金弁護団のウェブサイトで公開されておりますので、ご覧ください。

先日取り上げた京都地裁判決を前提として違いに注意してみていこうと思います。

Ⅰ 消費者契約法施行前の場合、公序良俗違反になるか

まず、この大阪高裁の案件はかなり長期の賃貸借であったため、消費者契約法の施行前からのものになります。これは京都地裁の事件では問題とならなかった点で、施行前に締結した賃貸借契約に基づく更新料に関しては、控訴人(原告)は民法90条違反を主張して不当利得であると主張していました。しかし、大阪高裁はそこまではいえないとして、否定しています。

Ⅱ 更新料の法的性質

この後は、検討の順番はやや異なるものの、枠組みは京都地裁判決と同じです。

以下では、更新料の法的性質の問題点に関する判示を見てみます。京都地裁判決と同じく、賃貸人が主張した正当化の理由ごとに検討しています。

1、更新拒絶権放棄の対価

大阪高裁判決でも、京都地裁判決でも言及された業として賃貸借を行う賃貸人には正当事由が具備されることはまずない以上、更新が強制されるので、更新拒絶権放棄の対価と考えることは困難だという理由を述べていますが、それに加えて契約条項にも注目して、いっそう補強しています。

それは賃貸人から更新拒絶の申し出期間が6ヶ月前までになっていることに注目して、賃貸借の期間が1年であることから、更新拒絶を申し出ることができるのは6ヶ月間しかなく、しかも正当事由が具備されることはまずないので現実化すると考えられないのにその対価として10万円を要するのは高すぎるとしています。

さらに契約文言に更新料をもって更新拒絶権放棄を結びつけるところがないことも指摘しています。

2、賃借権強化の性質

京都地裁判決では、正当事由が認められることはまずないので権利に変化がないとしていたのですが、大阪高裁はここのところでやや異なった判示をしています。

それは、正当事由が認められずに法定更新になってしまうと、借地借家法26条1項から期間の定めのない賃貸借になってしまうため、賃貸人がいつでも解約を申し出ることができるようになるが、それに比べると更新料を払うことで更新されて、期間の定めのある賃貸借になることは強化といえると判断しています。

しかし、そもそもの契約期間が1年間しかないので、借地借家法で認められる最短期間なので、更新料を払ってもこれになるだけでは権利が強化される程度はほとんど無視できるとして、賃借権強化の性質を否定しました。

3、賃料の補充の性質

この点については、当然に10万円全額を支払うことになっている点、中途で終了した場合に清算する規定がないことから後払いされる賃料の性質を持たないことは明白としています。

この後に、更新料を不払いをしても法定更新の要件を満たしているなら、債務不履行解除を認めるべき余地はないといって差し支えないとしています。

この点についてはやや引っかかるものがあったのですが、上記のように性質がよくわからないものであるから、債務不履行にはならないということなのでしょう。

そして最後に、更新料に関する慣習法、事実足る慣習は認められないとしています。

以上から対価性の乏しい給付であるとして、この後に続けて、消費者契約法10条に該当するとして無効としています。

最後には賃料を安く見せかけて誘引する効果があるとか、借地借家法の強行規定から目をそらせているなどと指摘しています。

全般的に、京都地裁判決よりも、より堅実な構成になっており、より説得力が増している感じを受けます。

ただ、慣習に関しては、やや引っかかるものがあるように思われます(もっとも更新料が広く授受されているとしてもなお無効とすることは可能です)。

賃貸人は上告する意向を示しているので最高裁の判断が注目されます。

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2009年8月31日 (月)

建物賃貸借の更新料を無効と判断した大阪高裁判決全文が弁護団のウェブサイトで公開される

先日お伝えした更新料を無効とした大阪高裁判決ですが、代理人の京都敷金・保証金弁護団のウェブサイトで全文が公開されています。直接リンクするのは悪いかと思いましたのでトップへのリンクを載せておきます。すぐ下に全文へのリンクがあります。

京都敷金・保証金弁護団

まだ、詳細を見ていないので検討は後日に改めてさせていただきます。

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2009年8月28日 (金)

大阪高裁、建物賃貸借の更新料を無効とする初判断 賃貸人は上告へ

京都地裁、賃貸住宅の更新料を消費者契約法違反で無効と判示 賃貸借の更新料を無効とした京都地裁判決全文が公開されるの件とは別件の事件ですが、同じ賃貸借の更新料の論点について無効とする高裁判決がでました。

大阪高裁は、27日にマンション賃貸借の事例で更新料を有効とした一審判決を破棄して、更新料は無効とする判断を示しました。高裁レベルでは初の判断となります。

まだ判決文は公開されていませんが、日経本紙面の記事によると、上記リンク先の京都地裁平成21年7月23日判決と同様の判示をしめしているとうです。

借地借家法によると、正当事由がないと賃貸借の更新を拒絶できないことから原則更新のはずなのに、更新に対価を要求するのは利益を一方的に害する契約といえるとしているという下りがあるようですので、京都地裁判決と同じ理由付けで消費者契約法10条に反して無効とした模様です。

また賃貸人側からの賃料の補充であるなどの反論も京都地裁判決と同様に退けているようです。

これだとやや論理が飛んでいることになりますが、特に重要な判示の部分だけ記事で注目したためで、実際には先日の京都地裁判決と同様の検討をしていると思われます。

そこまで検討すると細部の判断には違いがあるかもしれません。

賃貸人は上告するとしており、更新料が消費者契約法10条に反するかという論点について最高裁の判断が示されることになりそうです。

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2009年8月18日 (火)

最高裁、弁護士が債権回収の手段として係争物の債権の譲受をする行為は弁護士法28条違反であっても公序良俗に反しない限り私法上の効力は否定されないと判示

弁護士法28条に係争物の譲受の禁止の規定があります。

第28条(係争権利の譲受の禁止)

弁護士は、係争権利を譲り受けることができない。

よって弁護士は係争物を依頼人から譲り受けることはできません。弱みにつけ込むようなことになりかねないからですが、これに反することを正面からやってしまった事案があり、問題となりました。

最高裁判所第一小法廷平成21年08月12日決定 平成20(許)49 債権仮差押命令保全異議申立てについての決定に対する保全抗告棄却決定に対する許可抗告事件

この件は原告が日本国内に支店営業所がない外国法人であるために債権回収に難があることから弁護士が便宜のために債権譲渡を受けてしまったというものです。

そこで、弁護士法28条との関係でその譲渡の有効性が問題となり、訴訟要件を欠くのではないかという問題になってしまいました。

原審は、弁護士法28条に反する場合には債権譲渡の私法上の効力は否定されるという見解を示したのですが、最高裁はこれを否定して弁護士法違反と私法上の効力は別だとしました。

債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない

私法上の効力を否定するというのはよほどのことなのでこの判示が最高裁から出てくるのは当然でしょう。

なお宮川裁判官の補足意見がついており、弁護士法28条に違反しないとしても弁護士職務基本規程17条に同種の規定があることから係争物の譲受をすることは「品位を失うべき非行」に該当するとしています。すると懲戒処分を受けかねないということになりますので、絶対に行ってはいけないという厳しい規律を弁護士に課すことになりましょう。

(係争目的物の譲受け)

第十七条 弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。

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2009年8月17日 (月)

賃貸借の更新料を無効とした京都地裁判決全文が公開される

京都地裁、賃貸住宅の更新料を消費者契約法違反で無効と判示(2009.07.24)の続報です。

最高裁のウェブサイトで京都地裁判決の全文が公開されましたので検討してみたいと思います。

京都地判平成21年07月23日 平成20(ワ)3224 敷金返還請求事件

この件で問題となっているのは敷引特約と更新料の二点で、消費者契約法10条に照らして無効と判断して原告の請求を全部認容しています。

このエントリーでは更新料のところだけ検討します。

消費者契約法10条の条文は以下のようなものです。

消費者契約法

第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

10条の要件を検討する前に、まず本件が消費者契約法の適用を受けるかの確認を怠ってはいけません。

消費者契約法は消費者契約に関する規定をおいている法律で、事業者と消費者との間の契約が消費者契約と定義されています(2条3号)。

事業者とは法人すべてと事業をする個人のことです(2条2号)。消費者とは個人のことです(2条1号)。

本件の貸主は法人なのか個人なのかは定かではないのですが、物件がマンションですので個人であったとしても事業であることは明らかでしょう。京都地裁も弁論の前趣旨から簡単に認定しています。

そこで10条の要件ですが、上記の規定から分かるように、「民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であるか」と「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものか」の二点になります。

1、民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であるか

京都地裁は賃借人が賃料以外の支払を負担することは賃貸借契約の本質的内容ではないとしています。

その上で、更新料が賃料2か月分であるのに、賃料補充的な性格が乏しいこと、賃料補充の性格を認めるにしても支払時期が早いことから義務を加重するものであるとしています。

また、更新料が慣習化していると認める証拠はないとも付け足しています。

ここの部分についての判示は、民法所定の原則的な賃貸借に依拠している点が多分にあるように思われます。賃貸借契約で賃借人が支払わないといけないのは賃料だけだというのも敷金等は民法には規定がないことに根拠を有しているように思われますし、支払時期が早いので義務の加重になるという点も、民法の原則では賃貸借は賃料後払い(614条)であることを考慮しています。

しかし、敷金などは根拠はなくても広く行われていることですし、賃料後払いは任意規定で現実には賃料は前払いにしている契約がたくさんです。よってこれらの判断にはやや厳しいものがあるかもしれません。

また、事実認定を離れて、「慣習となっていない」という下りを法的に考えると、慣習になっているなら他と違いがないから加重しているとはいえないことになるという判断から、あえて言及したのだと思われます。しかし、民法91条に照らして考えると、慣習化していても、理由がないならなお公序良俗と判断するべきこともあるのではないかと思われますので、この点の考え方も気になります。下手をすると、更新料が日本中で行われているという証拠が出てきかねません。それよりも下記で検討する理由のない負担は無効だと端的に考えられるように解釈する方がよいのではないかと思われます。

2、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものか

一方的に害するかについては、京都地裁は規範を立てています。

消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があること(法1条)にかんがみ,当事者の属性や契約条項の内容,そして,契約条項が具体的かつ明確に説明され,消費者がその条項を理解できるものであったか等種々の事情を総合考慮して判断すべきである。

概ね、消費者契約法の逐条解説もこれと同趣旨であり、通説的な解釈であるといえます。

一般的に、契約締結に至る交渉の経緯などを細かく検討することが指摘されているのですが、本件では、更新料がそもそも法的性質がよく分からないものであるという特殊事情があるために、被告主張の更新料の法的性質も検討して合理性があるかも検討しています。よって被告の主張する更新料の性格が妥当であるかを一方的に害するものかの要件で検討しています。

契約締結に至る過程に関する検討では、更新料まで考慮して契約を締結することは困難であることと、法定更新なら必要がないのに合意して契約を延長すると負担しないといけなくなるものである点を指摘して、「大きな負担」であるとしています。これは一方的に害するにつながる事情であるといえます。

また、被告は更新料の正当化のために、

  1. 更新拒絶権放棄の対価である
  2. 賃借権強化の対価である
  3. 賃料の補充である
  4. 中途解約権の対価である

という主張をしていました。

これに対しては、それぞれ

  1. 事業で賃貸借をしている以上、正当事由があり更新拒絶が認められるということはまずないので、放棄する更新拒絶権がそもそもない。
  2. 更新拒絶が認められることはまずないので、賃借人側からみて権利的に変化はない
  3. 使用期間に関係なく課されるので対価性がなく賃料と評価できない
  4. 本件契約では中途解約権は賃貸人にもあるがこちらには対価が予定されていないので、賃借人に側についてだけ対価を求めるのは合理性はない

という判断をして、更新料の性格に関する被告の主張を否定しました。

よって更新料の趣旨は不明瞭としました。

そこで京都地裁は、規範を再度敷衍して、(そのような不明瞭な性質であることを)賃借人にきちんと説明して合意したしたのでないと、「一方的に害する」に該当するとしました。

しかし、被告は自ら主張している上記4点の性質すら説明していないとして、上記基準を満たす合意はないとしました。

以上から、10条の要件を満たしており、無効と判断したわけです。

本件判決はかなり一般的な判示をしていることがわかり、影響は極めて大きいことが分かります。

上記検討からも明らかになるように、更新料の法的性格をどう考えるかがポイントとなり、合理性を肯定するか否かで判断が分かれることになりそうです。本件判決の合理性を否定する判断にはそれなりに説得力がありますが、違う判断も可能でしょう。

上級審の判断が注目されます。

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2009年7月29日 (水)

東京高裁、業務請負で就労して過労自殺した件で使用者と業務委託元のニコンに対する損害賠償を増額

労働契約に付随する義務として使用者は安全配慮義務を負いますが、この義務の不履行には労働者がうつ病になってしまった場合も含まることがあります。

さて、今日では非正規雇用で労働契約上の使用者の事業所とは異なる所で就業する労働形態が増えています。すると本来なら使用者の安全配慮義務違反で生じるようなことが、使用者ではなく派遣先などの就業場所で生じてしまうことが増えています。

そのような事例で使用者と派遣先を提訴している事例で控訴審判決が出ました。

ニコンなどの賠償増額、7000万円支払い命令 過労自殺訴訟(日本経済新聞2009年7月29日)

ニコンの工場に派遣された業務請負会社「アテスト」(名古屋市)の元社員、上段勇士さん(当時23)が自殺したのは過重労働によるうつ病が原因として、母親の上段のり子さん(60)が両社に計1億4000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が28日、東京高裁であった。都築弘裁判長は、両社に計約2488万円の支払いを命じた1審判決を変更。賠償額を約4569万円増額し、計約7058万円の支払いを命じた。

判決は、上段さんの自殺前の勤務状況について(1)時間外や休日労働をしていた(2)担当外の重い業務との兼務で心理的負荷を蓄積させていた――などと指摘。「自殺の原因は業務に起因するうつ病と推認できる」と判断した。

「製造業への派遣を禁止していた当時の労働者派遣法に反していた」と言及。ニコンの従業員には指揮・監督権限があったのに、過重労働で心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したと結論付けた。(07:00)

基本の確認ですが、直接の労働契約関係のない派遣先などに安全配慮義務違反の責任を問うなら直接の契約はないことから、不法行為構成にすることが考えられますが、判例は、安全配慮義務を雇用契約の当事者だけではなく「これに準じる法律関係」がある場合にも肯定しており、債務不履行構成をとっています。

債務不履行構成でも不法行為構成でも時効などを除くとそれほどの違いはないのですが、とにかく確認が必要です。この辺の拡大している契約責任は自衛隊の事件以来、一貫した態度であるように考えられます。

本件のニコンは労務の提供場所に過ぎないののでまさにこの問題であり、上記報道からはニコン注意義務を確定しており、それに反した事実と生じた結果との間の相当因果関係もきちんと認定していることが伺われます。

なお、労働契約と安全配慮菊義務違反の当事者がずれる場合については、建築請負の場合だけは元請が労災保険法上の使用者になることが定められていますが、その他については全く規定がないので上記のような債務不履行などの民法に立ち返っての構成になります。

労働者派遣がこれだけ広がってきており、建築請負ばかりでなくなってきている以上、労災保険法による法定内補償を広げることを考えてもいいかもしれません。

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2009年7月24日 (金)

横浜地裁、塾校長を管理監督者ではないと判断

管理監督者該当性に関する裁判例に新たなものが加わりました。

塾校長の残業代認める 横浜地裁、運営側に支払い命令(日本経済新聞2009年7月24日)

横浜市や川崎市で学習塾「学樹舎」を運営する学樹社(横浜市)が、各校舎の校長などを管理職とし、時間外手当を支払わないのは不当として、元校長ら2人が同社に未払い分の支払いなどを求めた訴訟の判決で、横浜地裁は23日、同社に計約1千万円の支払いを命じた。

深見敏正裁判長は判決理由で、同社が正社員48人中、38人を管理職として扱っていたことを挙げ「いずれも管理監督者とする主張は到底採用できず、労働基準法に違反することは明らか」と述べた。(07:00)

上記報道だと、労働者の大半が管理監督者であるのは不自然ということを指摘したことが分かり、その指摘はその通りだと思います。

管理監督者該当性の判断要素は、

  • 経営と一体であるか
  • 主体的に自分の労働を決められるか
  • 待遇が相応しいか

などがいわれています。

大半の労働者が管理監督者であるというのは、上記の要素からはややずれますが、上記要素を推認させる間接事実と見ることもできます。

どのような形で言及されているのかはよく分かりませんが、大半の労働者が管理監督者というのは不自然だという一点だけで管理監督者該当性を否定したわけではないのだと思われます。

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京都地裁、賃貸住宅の更新料を消費者契約法違反で無効と判示

建物賃貸借の契約更新において授受される更新料という名前の金銭があります。どういう意味の金銭なのかよく分からないために法的性質について色々と議論があるところなのですが、近時、無効であるとして賃貸人を提訴する事例が相次いでいます。

このたび、更新料を無効とする判決がはじめて京都地裁で23日に出ました。

賃貸更新料は無効 家主に返還命令…京都地裁が初判断(読売新聞2009年7月24日)

賃貸マンションの契約更新の際に「更新料」の支払いを求める契約条項は、消費者契約法に反するとして、京都府長岡京市の20歳代の男性会社員が、支払い済みの更新料など46万6000円の返還を家主に求めた訴訟の判決が23日、京都地裁であった。辻本利雄裁判長は「入居者の利益を一方的に害する契約条項」と認定、同法に基づいて、更新料の契約条項を無効とする初の判断を示し、家主に請求全額の支払いを命じた。

(略)

判決によると、男性は2006年4月、京都市下京区のマンションに、賃料月5万8000円、2年ごとの契約更新時に賃料2か月分の更新料を支払う、との契約で入居。08年の更新時に11万6000円を支払ったが、同5月末に退去した。

裁判で家主側は「更新料には賃料の補充的要素がある」などと主張したが、辻本裁判長は「更新後の入居期間にかかわりなく支払わなければならず、賃借人の使用収益の対価である賃料の一部とは評価できない」と指摘。そのうえで、「家主が主張する更新料の性質に合理的理由は認められず、男性に具体的かつ明確な説明もしていない」などとし、契約条項は無効と判断した。

男性は入居時に払った保証金(敷金)35万円の返還も求めており、判決は保証金も消費者契約法に照らして無効とし、請求を認めた。

(略)

さて、結論を導く構成ですが、消費者契約法10条です。

第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

10条の対象となる契約条項には、契約の主要目的に関する条項や物品・権利・役務の対価に関する条項は除外されると解されています。それは取引の結果であり介入は控えるものの、一方で無関係なものが付着する場合を無効とする趣旨ということです。東京地裁判決の全文はまだ見ていないのですが、上記の報道によると賃料の一部であるか否かが問題となっているのだと思われます。

よって問題は更新料なるものの法的性質如何で決まることになります。ここの賃貸借によって事実が異なる可能性もありますが、賃貸借契約での金銭の授受項目は定型的に行われているものなのでそのまま他の場合にも妥当する考え方もできます。よってこの訴訟の今後や同種訴訟の判断が注目されるところとなりましょう。

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2009年7月23日 (木)

最高裁、契約解除に伴う原状回復義務が信義則上、同時履行の関係にたたない場合について判示

契約を解除した効果として、既履行の分については原状回復義務が生じますが、その原状回復義務は民法546条から同時履行の関係に立ちます。

第533条(同時履行の抗弁)

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

第545条(解除の効果)

当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。

3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

第546条(契約の解除と同時履行)

第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。

これが大原則ですが、このたび判例で例外的に信義則の観点から原状回復義務が同時履行の関係に立たず、解除した原告に対して被告が引き換え給付判決を求めることは許されないと判示した事件がありました。

最高裁判所第二小法廷平成21年07月17日判決 平成19(受)315 自動車代金等請求事件

事案としては、中古車の売買契約の解除です。

車種はシボレーなのですが、実は車台が二台の車の分が接合されたもので、事故車でよくやられるような細工によってできているのに、それが隠されていたという事案です。

買主は錯誤を理由として解除して売買代金の返還を求めて提訴したのですが、これに対して被告は、同時履行の抗弁権を行使、当該車の返還と車の移転登録を主張しました。

原因は同時履行の抗弁を容れて、引き換え給付判決を出したのですが、最高裁は、移転登録まで引き換え給付を認めたのは認められないとしました。

その理由は、既登録の複数の車を接合しているため、実は複数の登録番号を保有しているのに、それを売買に伴って一台分だけ登録している状況であるために登録を移転することが困難であるということを指摘しています。まず複数登録を解消しないといけないために仮にできるとしても困難であると言及しています。

よって、困難なこととの同時履行を求めることは公平を欠くとして、同時履行の抗弁権を主張して引き換え給付を求めることは信義則上許されないとしました。

かなり事案の特殊性が作用しているものであり、むしろこのような極端な場合でない限り、原状回復は同時履行にたつということが確認できるように思えます。

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2009年7月20日 (月)

最高裁、36協定を超えて時間外労働をさせた場合の労基法32条違反の罪について判示

労働法を勉強するときに、労基法は私法なのか公法なのかということを気にする場面がよくありますが、これは労基法に行政取締規定があったり罰則がついていたりするためです。

しかし、労基法で定められた制度に反すると必ず罰則があるわけではなく、いくつかに関してのみ罰則がついています。

36協定に反して超過して時間外労働をさせたという事案があり、労基法36条のうち36協定に関する違反には罰則がついていないのですが、これに対して検察官が週40時間の労働時間を定めている労基法32条には罰則がついているために労基法32条違反で公訴を提起して最高裁まで争われる事態になりました。

第32条(労働時間)

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

第36条(時間外及び休日の労働)

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

②厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。

③第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。

④行政官庁は、第二項の基準に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

第119条

次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第一項ただし書、第三十七条、第三十九条、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者

二 第三十三条第二項、第九十六条の二第二項又は第九十六条の三第一項の規定による命令に違反した者

三 第四十条の規定に基づいて発する厚生労働省令に違反した者

四 第七十条の規定に基づいて発する厚生労働省令(第六十二条又は第六十四条の三の規定に係る部分に限る。)に違反した者

最高裁判所第一小法廷平成21年07月16日判決 平成19(あ)1951 道路交通法違反,労働基準法違反被告事件

問題となった会社は、事実認定によると1日7時間、1ヶ月130時間といった内容の36協定を1年期限で有効に締結していたのですが、130時間を超えて2ヶ月に渡り合計53時間45分の36協定違反の時間外労働をさせてしまったという事案です。

原審は、36協定違反には罰則がついていないことから、月単位の超過は犯罪を構成しないとして週単位の超過が32条違反として犯罪になるとしつつも、検察官の訴因は月単位になっており、週単位分の超過に計算しなおした予備的な訴因変更は違反している規範が別である以上両立するとして公訴事実の同一性がないことから、訴因変更を認めず、無罪としました。

これに対して最高裁は、検察官の訴追意思の解釈を行うというよくある手法を展開して、32条違反での訴追意思があるとして訴因を補正すべき場合であるとしました。

ここまでは刑事訴訟法のおさらいのような内容ですが、この後訴因変更するべき内容について興味深い判示をしました。

32条からは1週間とだけあるのですが、その一週間の起算の仕方については特に定めはありません。月曜から労働時間を計測することを求められているのかは分からないわけです。

そこで、36協定の起算にあわせて週の労働時間を計測してよいとしました。

36協定は1日1月1年間でそれぞれ許される時間外労働時間の上限を定めておくもので、しかも年度始めとか元旦からという締結ができるとは限りません。そこで計算する期間を定めておく必要があるのですが、それに依拠して週の労働時間規制を超過するかの計算をしてもよいとしたわけです。

36協定に反した場合の法的効力が実はたいしたことはないというのは労働法を勉強された方はご存知だと思いますが、この判例によって36協定違反に根拠を有して罰則が適用される場合が肯定されました。この事例の与える影響は中々大きいのではないかと思われます。

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最高裁、刑法の強制執行妨害罪でいう強制執行には担保権実行としての競売も含まれると判示

刑法に強制執行妨害罪というのがあります。

第96条の2(強制執行妨害)

強制執行を免れる目的で、財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担した者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

「強制執行」というと、民事執行法の条文からは、担保権実行としての競売が入らないことになりますが、刑法の強制執行妨害罪では担保権実行も含まれると最高裁が判示しました。

最高裁判所第一小法廷平成21年07月14日判決 平成19(あ)2355 強制執行妨害,電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件

理由を特に言うことなく、端的に以下のように判示しています。

なお,刑法96条の2にいう「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれると解するのが相当である

当然の判断だと思われます。

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最高裁、期限の利益喪失特約のもとで利息制限法所定の制限を越える利息の支払の任意性を否定した平成18年判決以前に当該制限超過分を受領したことのみをもって悪意の受益者と推定することはできないと判断

訳のわからないタイトルですいません。

サラ金関係訴訟にさらに新しい1件が加わりました。

サラ金関係訴訟というと一連の流れのように思えますが、民法の分野としては債権総論と債権各論にまたがる部分であり、整理するのは中々難しいものがあるので、やや記述にも困難が生じているのでご了承ください。

タイトル中で言及している平成18年判決とは、最判平成18年1月13日民集60巻1号1頁のことで、利息の支払を一度でも遅れれば全債務について期限の利益を失うという期限の利益喪失約款によって支払ったものの、引きなおして計算すると利息制限法の制限を超過している分は、改正前の貸金業法43条のみなし弁済の要件である「任意に支払った」には該当しないと判示したものです。

平成18年改正前貸金業法

第43条(任意に支払つた場合のみなし弁済)

貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第三条の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払つた金銭の額が、同法第一条第一項に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。

一 第十七条第一項(第二十四条第二項、第二十四条の二第二項、第二十四条の三第二項、第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第一項に規定する書面を交付している場合又は同条第二項から第四項まで(第二十四条第二項、第二十四条の二第二項、第二十四条の三第二項、第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第二項から第四項までに規定するすべての書面を交付している場合におけるその交付をしている者に対する貸付けの契約に基づく支払

二 第十八条第一項(第二十四条第二項、第二十四条の二第二項、第二十四条の三第二項、第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十八条第一項に規定する書面を交付した場合における同項の弁済に係る支払

2 前項の規定は、次の各号に掲げる支払に係る同項の超過部分の支払については、適用しない。

一 第三十六条の規定による業務の停止の処分に違反して貸付けの契約が締結された場合又は当該処分に違反して締結された貸付けに係る契約について保証契約が締結された場合における当該貸付けの契約又は当該保証契約に基づく支払

二 物価統制令第十二条の規定に違反して締結された貸付けの契約又は同条の規定に違反して締結された貸付けに係る契約に係る保証契約に基づく支払

三 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第五条第二項の規定に違反して締結された貸付けに係る契約又は当該貸付けに係る契約に係る保証契約に基づく支払

3 前二項の規定は、貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定に基づき、債務者が賠償として任意に支払つた金銭の額が、利息制限法第四条第一項に定める賠償額の予定の制限額を超える場合において、その支払が第一項各号に該当するときに準用する。

すると、貸金業者が期限の利益喪失約款のもとで受け取った超過分は法律上の原因がないことになりますので不当利得ということになります。すると返還することになり、これがいわゆる過払い金の取り戻しという問題になるわけです。ここで民法の規定を眺めると、不当利得の返還には悪意の受益者であると利息をつけないといけません。よって利息をめぐる問題が浮上するわけです。

第704条(悪意の受益者の返還義務等)

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

過払い金返還と悪意の受益者について判例があります。

最判平成19年7月13日民集61巻5号1980頁

この判例は、結果としてみなし弁済の適用が認められない場合には、貸金業者がみなし弁済の適用があると認識しており、かつ、そう認識を有するに至ったことについてやむをえないといえる特段の事情があるときでない限り、悪意の受益者と推定されるとしました。

以上のような判例法理を踏まえたうえで本件の検討です。

この事件では期限の利益喪失約款のあるもとでの過払い金返還が問題になっています。みなし弁済にはならないので返還は義務ですが、利息がどうなるかの争いであるわけです。

最高裁判所第二小法廷平成21年07月10日判決 平成20(受)1728 不当利得返還等請求事件

原審は、上記の平成19年判決に依拠して、期限の利益喪失約款に基づいて受領したということは、悪意の受益者という推定を覆す特段の事情はないと判断しました。

この理由付けが中々すごくて、平成18年判決ではじめて明らかになった解釈なので、それ以前は任意性があるという解釈が最高裁判例でもって裏付けられていたわけではないとして、平成19年判決のいう特段の事情があるとはいえないとしました。判例変更ではないため判例としてはブランクでした。よって確たるものがない以上、貸金業者が大丈夫だと認識する特段の事情があるとはえいないということです。

しかし、これはあまりに厳しいのは否定できません。本件に関してはこれまでの貸金業の政策的な態度から、明確に否定されていないならしていいものと期待しても仕方ない性格のものですし、確立した実務であったことも作用して、悪意の受益者とまでしてしまうのはあまりに過酷といえましょう。

そこで最高裁は以下のように判示して、原審を破棄、差し戻しました。

平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。

このように、この判決は結論だけ見ると貸金業者よりですが、あくまで事実関係から妥当な解釈をしたにすぎず、サラ金関係訴訟で貸金業者に厳しい一連の流れに対してゆれ戻しなどの意図があるわけではないと思われます。

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2009年7月19日 (日)

最高裁、日本システム技術事件で代表取締役にリスク管理体制を構築する義務に違反した過失はないと判断

従業員が自分の営業成績をあげるために架空の売上げを計上したことから、同事実の公表によって株価が下落したとして代表取締役に責任があるとして、代表者の責任について会社に損害賠償責任を追及した(会社法350条)訴訟で最高裁判決が出ました。この事件は当該企業の名前を取って日本システム技術事件と通称されています。

最高裁判所第一小法廷平成21年07月09日判決 平成20(受)1602 損害賠償請求事件

取締役は善管注意義務と忠実義務を負っていますが、これだけでは抽象的に過ぎます。経営判断については経営判断原則によって判断されますが、このほかに具体的な義務がいくつか解釈で確立されてきました。

それが取締役相互間での監視義務とリスク管理体制構築義務です。リスク管理体制構築義務については、いわゆる日本版SOX法より前から裁判例(大和銀行株主代表訴訟事件において言及されました)によって認められていたことに注意が必要です。

リスク管理体制構築義務に反したか否かについては、判断がそれほどあるわけではないのですが、発生した不祥事と具体的にどのような体制を構築していたかの事実関係から判断することになります。

そこでこの事件の事実関係を見てみます。

この件の従業員の架空売上げ計上の手法は極めて巧妙です。

  • 販売の相手方が限定的である特殊な事業であるため、相手方の偽造印を作って注文書を偽造
  • 別の部署が販売に応じて相手方に送付する検収依頼書を相手方に渡らないようにして検収したように装う資料を作成
  • 財務部、監査法人が相手方に送付する売掛金残高確認書は相手方に虚偽を伝えて開封することなく回収して、残高を確認した用紙を作成して勝手に返信

このようにして、いくつか用意されている確認のための制度をすべて手を回してふさいでしまうことで発覚を防いでいました。

原審は、上記のように確認のための手段が、頑張って企図すれば不正ができてしまう程度のものでしかなかったことを捉えて、適切なリスク管理体制を構築していなかったと評価して過失があると判断しました。

これに対して最高裁は、判断を一変させて、過失はないと判断しました。

上記に出ている仕組みについては、一応、事業部門と財務部門の分離やチェックの仕組みが構築されていることから、

通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた

と評価しました。

これに対して当該従業員のした上記のような不正は巧妙を極めているとして、

通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる

としました。

加えて、以前に同種の不正行為はなかったことと、架空売上げなので売掛債権が大量にたまっている状況になっていたのに疑問に持たなかったのはおかしいという批判がある点に配慮をして、相手方とは紛争を生じたことがなかったことを指摘して、すべてをまとめてリスク管理体制構築義務に違反した過失はないとしました。

原審の言うように、抜け穴があるような不正防止の仕組みしかできていないのは過失があるといえるように思えないでもないですが、完全な不正防止システムを構築したらどう考えても費用倒れでしょうし、ちゃんとしている会社でも多かれ少なかれ抜け穴のあるような仕組みにとどまっていると思われます。

よって、最高裁の判断は現実的な判断として妥当なものだと思われます。

この判例の射程を判断するのは難しいですが、リスク管理体制構築義務に関する判例として会社がどこまでシステム整備をすればいいかについて、重要な基準を示すものになるように思えます。通常容易に想定できる不正に対処できる程度の体制を構築すればよいという基準となるのではないかと考えられます。

余談ですが、これは代表訴訟や取締役に対する責任追及ではなく、代表者の責任を根拠に会社に損害賠償請求をした350条の事件です。勉強している分にはあまり注目されませんが、このような条文もあることを確認しておきましょう。

第350条(代表者の行為についての損害賠償責任)

株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

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2009年7月17日 (金)

最高裁、担保不動産収益執行のもとで抵当権設定前の保証金返還請求権と賃料の相殺について判示

担保不動産収益執行は、抵当権を設定した不動産が賃貸されている場合に賃料に抵当権者がかかっていくというのが代表例です。過渡的に物上代位で賃料にかかっていくことが行われていましたが、立法した以上担保不動産収益執行に収斂していくべきとされています。

抵当権者が物上代位で賃料にかかっていく場合に大問題となったのが、賃料を実際には払わずに敷金など賃貸人(抵当権者から見れば担保権設定者)に対して差し入れた金銭の返還請求権と相殺を主張することが起きた場合の物上代位との優劣でした。

この問題とほぼ同じことが担保不動産収益執行でも起きまして、最高裁判決がでました。

最高裁判所第二小法廷平成21年07月03日判決 平成19(受)1538 賃料等請求事件

問題となっているのは建物です。

平成9年11月20日 賃貸借契約締結 保証金敷金交付

平成10年2月27日 抵当権設定

平成18年5月19日 担保不動産収益執行開始決定

平成18年7月5日 平成19年4月2日 賃借人が相殺の意思表示

上記のような経過をたどりました。

抵当権に基づく物上代位の判例から考えると、上記のような時系列ですと、抵当権設定よりも前に賃借人が債権を取得しているので、物上代位よりも相殺が優先される場合になります。

しかし原審は、相殺を認めず、担保権者の請求を認容しました。その理由として担保不動産収益執行開始決定以降は管理人に賃料債権が帰属するので、保証金返還請求権と賃料は相殺適状にないと判示しました。そうでないとしても、相殺の意思表示は管理人に対してしないといけないので本件では有効な意思表示がないとしました。

この原審の考え方から行くと、物上代位よりも担保不動産収益執行の方が担保権者から見た機能が強化されていることになります。しかし、最高裁はこの解釈を否定しました。

担保不動産収益執行の管理人の権限について以下のように、権利を行使する権限にすぎないと述べています。

管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属し
ているものと解するのが相当

よって、相殺は賃貸人に対してすることができるとしました。

すると規範は物上代位と同じになりますので、続いて、賃借人の債権の取得時期と抵当権の登記の時期を比較しています。結果、上記のような時系列ですので相殺を持って対抗できるとしました。

担保不動産収益執行は抵当権者の物上代位と近い効果になることが明らかになったわけですが、抵当権の公示がないうちに取得した債権なのに、担保権者が物上代位ではなく担保不動産収益執行を選択すると突然相殺が対抗できなくなるのは結論としてバランスを欠きますし、理論的にも収益執行をするのはあくまで抵当権者にすぎず、破産管財人等とは異なるという原理的なところから考えると最高裁の言うとおりだと思われます。

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2009年7月 9日 (木)

ライブドアの有価証券報告書虚偽記載で堀江元社長にまた損害賠償命令

ライブドア株主が同社の有価証券報告書虚偽記載で損害を被ったとして堀江元社長をはじめとする旧経営陣に損害賠償請求をしている裁判はたくさん提起されていますが、個人株主410名が提起したものの判決が9日に東京地裁でありました。

堀江元社長らに14億円賠償命令 ライブドア株急落、虚偽記載認め(日本経済新聞2009年7月9日)

ライブドア(現LDH)による有価証券報告書の虚偽記載で株価が急落し損害を受けたとして、株主410人が同社や堀江貴文元社長(36)ら旧経営陣に計約44億3500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(渡部勇次裁判長)は9日、同社などに計約14億6600万円の支払いを命じた。

渡部裁判長は、ライブドアの2004年9月期の有価証券報告書に虚偽記載があったとして同社や旧経営陣が賠償責任を負うと認定。原告側はライブドア株の取得価額から売却価額を引いた額が損害などと主張したが、同裁判長は04年の改正証券取引法(現金融商品取引法)に盛り込まれた「推定規定」を用いて損害額を算定した。

その上でライブドアによる虚偽記載の疑いが報道された06年1月18日の前後1カ月の平均株価の差額を基に、堀江元社長らの逮捕など虚偽記載以外の事情も加味し、最終的に1株あたり200円を損害額と判断した。(20:01)

この事件では、取得価格から売却価格を引いた株主の被ったいわゆる損害を全部請求しているのですが、金商法21条の2第2項に定めがある平均株価の比較とその他の下落事情を加味して減額をしている模様です。

第21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)

第二十五条第一項各号(第五号及び第九号を除く。)に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第十二号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第二十四条の七第一項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第十九条第一項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。

2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。

3 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第二十五条第一項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。

4 第二項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。

5 前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。

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大分地裁、商品先物取引で業者から受け取った損害金に雑所得として課税した課税処分を一部取消し

所得税において、損害賠償による損害金などは非課税所得となります。

所得税法

第9条(非課税所得)

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

十六 損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの

これは、失ったものを填補しているだけであり、新しく得ているわけではないからです。

しかし、損害賠償であるかどうかは本当に損害があるかによって決まるのであって、当事者が決めた支払名目が「損害賠償金として」となっていればなんでも非課税となるわけではありません。

よって、訴訟の結果損害賠償として認められたならともかく、当事者間で合意した賠償金の支払については、課税されてしまい本当に損害があるかが改めて問題となるわけです。

この論点についてはマンション建設反対運動の承諾金事件が有名ですが、似た事案として、商品先物取引で業者に問題のある勧誘行為があったのか顧客との間で損が出たことについて紛争となり損害金を支払うことで合意したものの、それに課税がされてしまったという事件がおきました。

先物取引損害、和解金は非課税 大分地裁、国の処分取り消し(日本経済新聞2009年7月6日)

商品先物取引による損害をめぐり、業者から損害賠償金などとして和解金を受け取った大分県の男性が所得税を課されたのを不服として、国に課税処分取り消しを求めた訴訟の判決で、大分地裁(一志泰滋裁判長)は6日、原告側主張をほぼ認め、約460万円の課税処分を取り消した。

一志裁判長は判決理由で「和解金は先物取引による損害に基づいて取得したもので、非課税所得に該当する」とした。

(略)

判決によると、男性は先物取引業者の不法行為で約6000万円の損失を被ったとして提訴。その後、2001年に業者側が1900万円を支払うことで和解が成立した。別府税務署は05年、和解金のうち訴訟費用などを除く約1400万が雑所得に当たるとして所得税約530万円を課税した。〔共同〕(00:45)

別府税務署は和解金の大半について課税してしまったのですが、大分地裁はこれを否定してほとんどの課税を取消しました。

課税分が一部残っていますので、損害をめぐる事実認定の違いということになるかと思われます。

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2009年7月 6日 (月)

最高裁、相続人のうちの1人に相続させる遺言があり、相続債務もすべて承継した場合、遺留分侵害額の算定に当たっては法定相続分に応じた相続債務額を加算することは許されないと判示

これまた少し前の判例です。

相続人が複数いるときに遺言で1人に相続させてしまうと、他の相続人にとっては遺留分侵害がありますから、遺留分減殺請求権を行使することが出来ます。

しかし、相続財産だけではなく相続債務があるときには、相続人は遺言とかかわりなく相続債務の支払を請求される可能性があります。すると後でこれを唯一の相続人に求償することになりますが、これもまとめて遺留分減殺請求でやろうとした事案があり、最高裁判決がでました。

最高裁判所第三小法廷平成21年03月24日判決 平成19(受)1548 持分権移転登記手続請求事件

いくつかの論点が交錯している事件となっています。

  1. 相続させる旨の遺言は相続債務に関してはどのような意思であるのか
  2. 遺言によって示された相続債務に関する相続分の相続債権者に対する効力
  3. 上記2点を踏まえて、相続債務がある場合の遺留分の算定方法

1 相続させる旨の遺言は相続債務に関してはどのような意思であるのか

特段の事情がない限り、相続債務もすべて相続人に負わせる意思であると解するべきとしています。相続財産の中から支払うわけですから合理的な意思解釈だと思われます。

2 遺言によって示された相続債務に関する相続分の相続債権者に対する効力

1のように解すると、相続債務を負担するのは遺言で指定された相続人だけになりますが、これはあくまで相続人の間でしか効力がなく、相続債権者に対しては効力が及ばないとしました。

債権者が関与できない遺言で左右されてはたまりませんから相対効であるのも当然だと思われます。

もっとも相続債権者が積極的に遺言の内容を承認して履行を請求することは妨げられないとしています。これも当然のことで妥当でしょう。

3 上記2点を踏まえて、相続債務がある場合の遺留分の算定方法

すると、相続財産をもらえるわけではないのに、相続債権者からの請求を受けかねない相続人は財産的には困難なものがありますが、それでも最高裁は遺留分を計算するのに相続債務に法定相続分をかけたものを加えることはできないとしました。相続債権者から支払を求められても、遺言で指定された相続人に求償しうるにとどまるとしています。

判例は、これより前に、遺留分の額の計算方法について、当該遺留分権利者が負担すべき相続債務を加算することを認めています。(最判平成8年11月26日民集51巻10号2747頁

本件のような場合では遺留分権利者は、遺言による相続債務の負担割合の指定を債権者対抗できないために支払を求められるにすぎず、求償することができるために最終的に負担すべきとはいえず、加算することは許されないと判断したわけです。

単純に考えても、支払を求められるかも分からないのに、必ず遺留分算定の基礎にはできてしまうというのは変な話ですので、この判旨のいうとおりだと思われます。

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最高裁、譲渡禁止特約のある債権を譲渡した譲渡人は、譲受人に対して譲渡の無効を主張することは出来ないと判示

取り上げ損ねていた少し前の判例を扱います。

譲渡禁止特約のある債権を譲渡した譲渡人が後からその特約の存在を理由として譲渡は無効であると、譲受人に対して主張した事案で、最高裁は特段の事情がない限り無効を主張することは許されないと判示しました。

最高裁判所第二小法廷平成21年03月27日判決 平成19(受)1280 供託金還付請求権帰属確認請求本訴,同反訴事件

原審は譲渡人からの無効主張を認めていました。これは無効は絶対的であるという理解に立っていると思われます。

これに対して、最高裁は譲渡禁止特約は債務者の利益のためのものであり、譲渡人である債権者は自ら譲渡した以上無効主張する独自の利益はなく、無効主張は許されないとしました。

自分で譲渡しておきながら後から実は無効だと言い出すのはいかにも信義則に反しますので当然の判断でしょう。信義則ではなく独立の利益がないという言い方をしているところに注意がいりますが。

債務者が無効主張をする意思がある場合は特段の事情があるとしており、譲渡人による無効主張は一切認められないわけではないことも明らかにしています。これは錯誤無効の債権者代位による主張とパラレルな考え方と思われます。

本件においては債務者は債権者不確知を理由として供託しており、特段の事情はないとしています。

以上から、独自の利益がなく特段の事情もないために主張は認められないという結論になっています。

本件では譲渡された債権は建設請負の報酬債権なのですが、定形的な約款を用いており譲渡禁止特約がついている債権も多いのが現実です。世間的には譲渡が禁止されている債権がかなり多いわけですが、債務者の意向によっては特約のとおりの現実にはならないということになります。公共工事の報酬債権などを考えると、意義がそれなりにありそうな判断だと思います。

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2009年6月20日 (土)

ライブドア有価証券報告書虚偽記載で株主による損害賠償請求でまたライブドアに賠償命令

ライブドアの有価証券報告書虚偽記載によって株価が急落して株主が損害を受けたとして、ライブドアの旧経営陣に損害賠償を請求した裁判は、個人株主ルートと機関投資家ルートがすでに判決が出ていますが、さらに18日に大阪の法人株主が提訴していた件で東京地裁で判決がありました。

旧ライブドアに賠償命令 東京地裁、虚偽記載認め6100万円(日本経済新聞2009年6月18日)

ライブドアによる有価証券報告書の虚偽記載で株価が急落し損害を受けたとして、大阪の建設機械製造会社など株主がLDH(旧ライブドア)や堀江貴文元社長(36)ら旧経営陣に計約1億5000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(難波孝一裁判長)は18日、計約6100万円の支払いを命じた。

難波裁判長は判決理由で、有価証券報告書の虚偽記載があったと認定。そのうえで、虚偽記載が公表された場合、前後1カ月の平均株価の差額を損害額と推定する2004年の改正証券取引法(現金融商品取引法)の規定を適用した。

ライブドアによる虚偽記載の疑いが報道された06年1月18日を「公表日」として、公表日の前1カ月と後の1カ月の平均株価の差額1株585円を推定損害額と算出。ただ、株価の急落は堀江元社長の逮捕など虚偽記載以外の原因もあったとして、最終的に1株200円と損害額と判断した。(18日 20:01)

この裁判例でも、金商法21条の2の適用を肯定、ネックとなる公表日については報道がされた日として、すでに出ている裁判例と同様の判断をしました。

すでに何度も書いていることなので繰り返しませんが、詳しくは以下のエントリーをどうぞ。

東京地裁、ライブドアの有価証券報告書虚偽記載の損害賠償請求で、検察官による「公表」があったと判断

金商法21条の2については、下級審レベルでは積極的に活用する方向で落ち着いてきたように思われます。もっともライブドアの件しか実績がないのも確かであり、蓄積がそれほどあるわけではないということも十分に可能に思えます。

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2009年6月16日 (火)

最高裁、所有権留保が設定された動産に起因する不法行為責任について、被担保債務の弁済期以降は担保権者が責任を負うと判示

譲渡担保で所有権的構成と担保的構成のどちらをとるかが議論がされますが、これと似た問題として所有権留保の法的性質が問題となった事件がありました。

最高裁判所第三小法廷平成21年03月10日判決 平成20(受)422 車両撤去土地明渡等請求事件

この事件では、所有権留保されているのは自動車なのですが、貸し駐車場の賃料を払わないために、駐車場の貸主から自動車の撤去明け渡しと賃料相当額の損害金を請求されているという不法行為の事件です。この自動車の購入代金の割賦弁済は滞ってしまっており、所有権留保もされていることから、駐車場の貸主が、担保権者を訴えているというところが特徴的です。

原審は、担保権者には所有権は確かにあるものの実際には担保権であり撤去明け渡しの義務は負わないとして請求を棄却していました。

最高裁はこれに対して、所有権留保の内容を実質的に判断して、担保権者が所有者としての責任を負う時期を明示しました。

残債務の弁済期までは交換価値の把握にとどまるものの、弁済期後には目的物を占有処分することが出来るから本件のような場合には不法行為の責任を負うとしました。

その上で、原審が弁済期を徒過したかについての判断をしていないので差し戻しています。

なお、知らないうちに不法行為者になっていてはたまらないということで、不法行為が発生している事実を知らなければ不法行為責任を負わないとしています。知らせてから不法行為になるということなので損害金の算定に影響することになりましょう。

所有権留保で買っており、きちんと弁済しているかは外部からは容易には分からないでしょうから、誰を相手取って提訴すればいいかについては難しい問題になりそうです。両負けを防ぐために同時審判申出共同訴訟を提起するなどが有用に思えますが、本件では担保権者だけが被告になっています。資力が怪しくなっているからこそ不払いも生じているでしょうから、両方を訴えるというのは現実的ではないのでしょう。

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最高裁、継続的金銭消費貸借契約における過払金返還請求権の消滅時効が取引終了から進行する場合について判示

一連のサラ金関連訴訟に新しい内容が加わりました。

最高裁は、よくあるサラ金などの継続的な金銭消費貸借契約で、過払金が発生した場合には別口借入金債務に充当する合意がある場合に、過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、取引終了から進行すると判断しました。

最高裁判所第三小法廷平成21年03月03日判決 平成20(受)543 不当利得返還請求事件

消滅時効は権利行使が可能となった時点から起算されますが、借入金が次々と発生して逐次返済していく消費貸借で過払金が発生した場合は、過払金返還請求権はいつから行使可能となるのかという問題です。

民法

第166条(消滅時効の進行等)

消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。

2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

最高裁は、逐次借入金が発生するような契約で過払金の充当合意がある場合には、新たな借入金の発生が見込まれる限りそれに充当されることになると考えて、過払金返還請求権は行使されないことになるとして、過払金充当合意が法律上の障害となるとして、全体の取引が終了した時点から消滅時効が進行するとしました。

借り手がまだ借入金が発生すると思っている限り、過払金の返還請求はしないで充当のためにとっておこうとするだろうということで、結果としてそれ以降に借入金は生じなかったとしても、権利行使はそもそも期待できなかったので消滅時効は進行していないということでしょう。

この発想は、判例中でも引用されていますが、このブログでも以前取り上げた自動継続特約付定期預金の事件(最判平成19年4月24日判例時報1979号56頁)と共通しています。

この多数意見に対しては、田原裁判官の反対意見がついています。

充当することを考えるにしても過払い金返還請求権の権利行使自体は可能であり、法律上の障害とまではいえないとしています。さらに充当合意に消滅時効の進行を遅らせる合意まで含まれていると解するのは無理があるとしています。

田原裁判官は、このような解釈をすると、貸金業者が新規の貸付に応じないようになってしまうと実際的な問題点にも言及されています。

この田原裁判官の反対意見は説得的ですが、あまりに貸金業者に厳しくするとかえって借り手を縛ることになってしまうのは最高裁も当然承知しているでしょう。

しかし世論、立法からして貸金業に大変厳しくあたった以上、それでいいとするほかないと判断しているのでしょう。それによる社会的な不利益があるとしても民主的に選択した以上、国民全体で負うことだと考えているのでしょう。

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最高裁、株主代表訴訟で追及の対象となる取締役の責任には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると判示

会社法では責任追及の訴えという名前になっていますが、これは旧商法から引き継いでいる株主代表訴訟のことです。

この代表訴訟で追及するのは、「役員等の責任」となっています。旧商法では「取締役の責任」となっていましたが、取締役の責任追及の局面では同じ内容です。

さて、この取締役の責任の意義については従来から議論があり、二つの見解が対立していました。法律で定められた責任に限られるとする見解と、広く役員等が会社に対して負う債務全般が対象となるとする見解の二つです。

有力説と裁判例は、後者の全債務説をとっていました。

全債務説としてよく参照されるのが、大阪高判昭和54年10月30日高民集32巻2号214頁【会社法百選74】でして、これは会社の有する所有権に基づく登記移転請求権を代表訴訟で追求したもので、真正な登記名義の回復義務も追及の対象となるとしています。

この論点については判例は無かったのですが、このたび、最高裁が正面から判示をしました。

最高裁判所第三小法廷平成21年03月10日判決 平成19(受)799 所有権移転登記手続請求事件

この事件も上記の大阪高裁判決とほぼ同じ状況です。

会社が買い受けた土地の登記名義が取締役のものになっているために、株主が真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続きを代表訴訟で追及したものです。

原審は、有力説や裁判例とな異なり、代表訴訟で追及できるのは旧商法266条1項各号など商法が取締役の地位に基づいて負わせている責任に限られるとして却下したので、上告がされたものです。

最高裁はこれに対して、次のように一般論を述べています。

同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。

理由としては旧商法266条に列挙されているものに着目しています。

【会社に対する責任】
第266条

左ノ場合ニ於テハ其ノ行為ヲ為シタル取締役ハ会社ニ対シ連帯シテ第一号ニ在リテハ違法ニ配当又ハ分配ノ為サレタル額、第二号ニ在リテハ供与シタル利益ノ価額、第三号ニ在リテハ未ダ弁済ナキ額、第四号及第五号ニ在リテハ会社ガ蒙リタル損害額ニ付弁済又ハ賠償ノ責ニ任ズ

第二百九十条第一項ノ規定ニ違反スル利益ノ配当ニ関スル議案ヲ総会ニ提出シ又ハ第二百九十三条ノ五第三項ノ規定ニ違反スル金銭ノ分配ヲ為シタルトキ

第二百九十五条第一項ノ規定ニ違反シテ財産上ノ利益ヲ供与シタルトキ

他ノ取締役ニ対シ金銭ノ貸付ヲ為シタルトキ

四 前条第一項ノ取引ヲ為シタルトキ

五 法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シタルトキ

3号では、取締役に対する貸付が入っており、「地位に基づくもの」に限られるというのに無理があること、取締役は会社との間で取引をした場合にもなお忠実に履行する義務を負うと解されることをあげています。

忠実に履行する義務というのは、取締役である以上、委託信任関係とは別の会社との取引でも、会社のために最善に行動する義務があるというような意味ではないかと思います。

よって、法定されている責任以外にも代表訴訟で追及できる責任を広げる判断を指示したことになります。会社法では、旧商法266条のようになったおらず、423条で任務懈怠という形で抽象的に一本化されていますが、それでもなお妥当する判断でしょう。

ただ、よく見ると有力説や裁判例をそのまま採用したわけではありません。

「取引債務」といっており、所有権に基づく所有権移転登記手続を請求した主位の請求に関する上告は棄却すべきとしており、所有権移転手続の委託と名義借用契約の終了に基づく所有権移転登記手続の請求である予備的請求の方の上告を認容して差戻しをしているからです。

取引債務に限られるという以上、債権的登記請求権でないと代表訴訟で追及することはできないということでしょう。

上記の大阪高裁判決は、登記回復義務の発生根拠を明示していないのですが、所有権に基づく所有権移転登記請求の場合も含んでしまうことになりそうです。この点において、この判例は新しい判示を行っているように思えます。

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2009年6月 7日 (日)

最高裁、生命保険で指定受取人とその相続人が同時死亡した場合には、当該相続人またはその相続人の相続人は保険金を受け取る相続人には当たらないと判断

訳のわからないタイトルでかつ、最高裁判示を敷衍して記載したつもりの上記のタイトルが判旨と一致しているのか確信がもていないのですが、一応書いておきます。

生命保険の受取人(指定受取人といいます)は、その性質上、第三者ということになりますが、指定受取人が死亡したりした場合には保険契約者が新しく指定することが出来ます。しかし、それにしなかったときに保険契約者の死亡が生じると受取人がいないことになってしまいます。そこで商法の保険の規定(保険法に改正されました)では民法の相続の規定に従って受取人を定めるとしています。

商法

第676条〔保険金受取人の死亡〕

保険金額ヲ受取ルヘキ者カ被保険者ニ非サル第三者ナル場合ニ於テ其者カ死亡シタルトキハ保険契約者ハ更ニ保険金額ヲ受取ルヘキ者ヲ指定スルコトヲ得

②保険契約者カ前項ニ定メタル権利ヲ行ハスシテ死亡シタルトキハ保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人ヲ以テ保険金額ヲ受取ルヘキ者トス

保険法

第46条(保険金受取人の死亡)

保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。

保険金を受け取るのは受取人の権利であることから考えるとこれは至極当然のことに思えます。

しかし、保険の受取人は近親者にしておくことが多いですから、受取人の死亡によって相続するのは保険契約者本人であったりすることが多くなります。

肝心の保険金は保険契約者の死亡によって生じるため、指定受取人→保険契約者の順で死亡した場合で保険契約者が受取人の相続人でもあるような場合には、自分の死亡による保険金を受け取る権利を相続してそれを保険事故の発生に伴ってさらに相続することになります。

よって、保険契約者と受取人が夫婦である場合で夫婦間に子供がいなかった場合には、子供がいない場合にはじめて直系尊属及び兄弟が相続できることを定めている民法899条1項から、夫側、妻側に保険金が分かれていくことになります。

上記の例のように順を追って死亡した場合ならこのようになることでいいのですが、問題となるのが保険契約者と指定受取人の同時死亡の例です。

同時死亡の場合にはその死亡した両当事者間では相続は発生しませんので、指定受取人のその他の相続人(直系尊属や兄弟姉妹)しか相続が発生しないことになります。

すると、保険金は指定受取人側のその他の相続人にしかいかないことになります。

これはあまりにアンバランスではないかということで、保険実務では双方に保険金を支払う扱いをしているようなのですが、最高裁がこの扱いを否定、同時死亡した相続人(これは保険契約者です)の相続人は保険金の受取人にはならないことを判示しました。

最高裁判所第三小法廷平成21年06月02日判決 平成21(受)226 死亡給付金等請求,民訴法260条2項の申立て事件

最高裁の理由付けは要するに、同時死亡ならその間では相続は発生しないからということです。

保険会社側は、同時死亡の場合でも商法676条2項の適用に当たっては指定受取人が先に死亡したと扱うべきであると主張したのですが、最高裁はそのようにする理由がないとしています。

条文だけ見れば確かに最高裁の言うとおりですが、保険会社の主張の根拠は公平にあるのでしょう。よって実務に大きな変更を求めることになるこの判例の影響は大きいと思われます。

この判例の結論を具体的な帰結に即して言うと以下のようになります。

夫婦のうち夫が生命保険契約をして妻を受取人にした場合で、夫婦に子供がいない場合で、夫婦が同時死亡した場合には、夫の死亡によって発生する保険金はすべて妻の相続人にいくということです。

この同時死亡の例は裁判例で同旨の判断がこれまでにもでていました。よって初の最高裁判決であるという点に意義があるのですが、公平の観点などからは異論もあると思われます。

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2009年5月31日 (日)

最高裁、レックスHDのMBO時に反対株主の株式買取請求権が行使されたことに伴う価格決定の申立てで、レックス側の許可抗告を棄却

牛角などを経営しているレックス・ホールディングスが2006年にMBOをして非公開会社になった際に、TOBに続いて定款変更などを組合せて普通株式を全株取得条項付種類株式にして取得対価を1株未満の普通株式にする方法でTOBに応じなかった株主を追い出して100%取得を実現しました。

この際に反対株主に株式買取請求権が生じて、行使されましたが、会社との協議では公正な価格とされる買取価格について合意することができず、価格決定の申立てが東京地裁に申し立てられていました。

会社側の1株23万円の主張に対して、東京地裁はその価格を妥当としましたが、東京高裁は33万円の決定を行いました。

このたび、レックス側からの許可抗告を最高裁が棄却したために1株33万円で決着することになりました。

最決平成21年5月29日←アドバンテッジ被害者牛角会ホームページへのリンクです。リンク先に決定全文へのリンクがあります。直接リンクできなかったので迂遠なことになっておりますがご了承ください。

MBOの買い取り価格、レックスの抗告棄却 最高裁(日本経済新聞2009年5月30日)

「牛角」などを展開するレックス・ホールディングスの経営陣による企業買収(MBO)をめぐり、株主らが株式買い取り価格が低すぎるなどと申し立てていた許可抗告審で、最高裁第三小法廷(近藤崇晴裁判長)は29日、レックス側の許可抗告を棄却する決定をした。1株約33万円を公正な価格とした東京高裁決定が確定した。最高裁が会社法に基づく株式の買い取り価格について判断を示したのは初めて。

レックスは2006年11月にMBOを発表し、買い取り価格を23万円と設定。レックスは06年8月に業績予想の下方修正を発表しており、株主らが「発表で急落した株価を基に価格を決めており不当」として裁判所に適正価格の決定を申し立てていた。

東京地裁はレックスの提示価格を妥当と判断。株主側の抗告を受けた東京高裁は、下方修正について「MBO実施を念頭に、決算内容を下方に誘導することを意図した会計処理がされたことは否定できない」として、適正価格を約33万円に引き上げた。(00:33)

株主が問題としていた会社のMBO実施前にわざと下方に業績を誘導したことも考慮して価格が決定された判断が最高裁で維持されたことになり、この点において意義があると思われます。

しかし一方で、鑑定等で株主に金銭的な負担を強いるなどの問題点も指摘されて、最後の砦だとされる株式買取請求権の存在意義に大きな疑問がついた一件でもありました。今後は経済情勢を反映して再編のためのMBOも起きてくる可能性がありますが、株主の犠牲の上に実行するようなことのないように工夫が必要だといえるでしょう。

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2009年5月23日 (土)

最高裁、公訴時効成立後に発覚した殺人事件の犯人に対する損害賠償請求訴訟で除斥期間経過後にかかわらず適用を否定

東京高裁、公訴時効成立後に発覚した殺人の損害賠償請求訴訟で除斥期間の適用を否定して請求を認容(2008年2月2日)の続報です。

最高裁も原審までの判断を支持して上告を棄却しました。

最高裁判所第三小法廷平成21年04月28日判決 平成20(受)804 損害賠償請求事件

この事件の論点は上記の高裁判決のエントリーにまとめてあるのでご覧ください。

単純にいうと民法724条の不法行為の時効のうち20年の方は、平成元年判決によって除斥期間とされています。よって停止等はないはずなのですが、これだとあまりに不当な結果になるために例外を認めた平成10年判決で制限行為能力者の場合には、法定代理人等が選任されてから6ヶ月間は時効が停止する民法158条の趣旨を援用して、救済を図ったことがあります。

第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)

時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。

2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。

この事件では、原告が制限能力者というわけではないので、平成10年判決からはさらに離れる感じがあるのですが、除斥期間の効果を制限することは同様に肯定しました。

その際、根拠について最高裁は民法160条に言及しています。

第160条(相続財産に関する時効の停止)

相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

条文の意味からは、やや離れるので、「民法160条の法意に照らし」としています。

平成元年判決に対して、158条による例外を認めたのが平成10年判決、同じ思考方法によって160条による例外を認めたのがこの判例という位置づけが出来るかと思います。

これでも十分な構成であるため、平成元年判決を変更する判断はしていませんが、田原裁判官は平成元年判決を変更するべきであるという意見を書かれており、債権法の改正作業に期待する旨もかかれています。

内田教授の行われている債権法の改正は、債権法にとどまらず、時効にも及ぶことになっていますので、立法的解決が図られるかもしれません。

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最高裁、会社が破産手続開始決定後も当該会社の取締役選任決議不存在確認訴訟の訴えの利益は失われないと判示

取締役からの解任決議と新たな取締役選任決議の不存在確認を解任された取締役が請求していたところ、当該会社に破産手続き開始決定がされてしまったという事例で、最高裁が、破産しても当該決議不存在確認の訴えの利益は失われないと判示しました。

最高裁判所第二小法廷平成21年04月17日判決 平成20(受)951 株主総会等決議不存在確認請求事件

取締役と会社の関係は委任ですが、すると民法653条から委任者の破産は委任契約の終了事由である為に、取締役は当然に契約終了になり、選任決議の不存在を争うまでもなく地位を失うので訴えの利益がないように思えます。事実、原審はそのように判断していました。

しかし、最高裁は、民法653条の趣旨を、破産が委任の終了事由となるのは財産の管理処分権が破産によって委任者には出来なくなるので受任者にも当然出来なくなるというところにあると解して、会社の場合には財産の管理処分権のほかに会社組織にかかわる行為があり、これは管財人には帰属しないために会社は破産後もなお行うことができるとしました。よって取締役との委任契約は当然には終了しないと判断しました。

この破産しても取締役は当然には地位を失わないというのは、これがはじめての判示ではなく、保険法に関連してすでに判示したことがあります。

最判平成16年6月10日民集58巻5号1178頁

この事件では、保険約款に記載されている取締役に、会社が破産した後の取締役も該当するとしたもので本件とは若干事案が異なりますが、判断の実質は同じです。

会社関係訴訟の訴えの利益の消滅については判例法理がかなりあるのでおさえておかないといけませんが、さらに一件加わったといえるでしょう。

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