社会保障法

社会福祉に関する法分野に関連する記事です。

2013年11月17日 (日)

東京地裁,障害基礎年金の認定に診断書がなくても可能として不支給処分を取消

遡っての障害基礎年金の支給を申請したところ,支給時点以降の分以外は不支給となったところ,取消訴訟が提起され,東京地裁は不支給処分を取り消すというかなり大胆な判決がされました。

障害基礎年金:女性の請求認める判決 東京地裁- 毎日jp(毎日新聞)

障害やけがの程度に応じて支給される障害基礎年金を巡り、支給開始の20歳の時には制度を知らなかった東京都内の知的障害の女性(32)が、当時の医師の診断書がないことを理由に過去にさかのぼっての支給を認めない国の処分は誤りだとして取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は8日、女性の請求を認める判決を言い渡した。谷口豊裁判長は「20歳当時を知る関係者の証言から女性に障害があったと認められ、処分は違法」と述べた。

女性は28歳だった2009年8月に制度を知り、軽度の知的障害との診断を受け、翌月から年金を受給。20〜28歳分の支給も国側に求めたが診断書がないために退けられ、11年に提訴していた。

判決は、女性が20歳当時に通っていた洋裁専門学校の担任が、▽ミシンを1人では使えなかった▽衣服をうまく着脱できなかった−−などと証言したことを重視し、障害等級2級に該当していたと認定した。(略)

この事件には,時効の問題から障害基礎年金をどこまで遡って支給を受けられるのかという論点がまずありますが,さらにそれをクリアしたうえで,障害の認定に当たっての事実認定に関する裁量が問題となっています。

前者の問題についてはすでに別の裁判例でも取り上げたことがありますが一つの争点です。

今回はさらにその先の問題として事実認定に関して問題となっています。というのは,障害年金は,請求するに当たり,主治医から所定の診断書に状況を記載してもらう必要があり,それを添付資料として必ず提出しないと受理されません。

今回は発症当時とされる20歳ごろの時期についてはまだ受診していなかった模様で診断書がないということなのですが,それでもそのほかの事実から障害の状態と認定できるなら受給資格ありとなるかということが問題となったわけです。

東京地裁は,間接事実から受給資格ありと認定できるので不支給処分は違法と判断しました。

法律上は障害の状態が要件となっているところですが,診断書の記載をもとにして障害状態にあるかを読み解いて認定をするというのが年金実務となっており,裁判所のするような間接事実から認定してしまうということは行っていないわけです。このような認定の仕方をすると,実務上は大変な混乱をきたす恐れがあり,実務が回らなくなってしまう可能性もありそうです。

一方で障害年金は,障害者にとっては非常に重要な生計を保つための手段になりますので,すこしでも障害の実態に即して受給を受けることが望ましいのは確かです。裁判で判断されたら支給するがそれ以外では診断書一本主義のような運用にすることもありでしょうが,厚生労働省の所管する制度ではそのような対応を取らず,裁判で判断されたことを実務にも反映させるように改めていくという動きをする傾向があります。それは,正しい反応ではあるのですが,現在の年金実務は相当程度,混乱しており障害年金の場合,支給までの手続きがかなり遅れ気味になっている傾向があります。そのような中,実務とのすり合わせをどうするのかなど,深刻な問題を招来させそうな一件といえるでしょう。

裁判例情報

東京地裁平成25年11月8日判決

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2013年10月20日 (日)

会計基準の変更で退職給付の積立不足を負債に計上が必要となるため,ANA,NTTなどで企業年金制度の改革の動きが生じる

企業の退職給付の積立不足があることが以前から問題になっているのですが,会計制度の変更によって,これを負債に計上しないといけなくなることから,企業が対応に動くことが促されて,企業年金制度変更がでてきています。

退職給付を年金の3階部分として給付する企業年金の形でもっている企業は大企業を中心に多いですが,この部分に積立不足があるところ,それを負債として計上しないといけなくなるということです。

そこで,端的に積立不足を抑制することができる制度への変更が志向されています。

確定給付企業年金の形で制度をもっている場合には,確定拠出企業年金への制度変更をすることで拠出だけすればよくなるので,抑制が見込めます。ANAやNTTはこの方法を部分的に取り入れると報道されています。

このほかに,確定給付企業年金において支給の内容を変更するということも考えられますが,これには規約の承認というハードルがあることはNTT事件で明らかになったところです。

また,自社株を退職給付信託に拠出するという動きも目立っているとのことです。これは現金ではないものを使って資産を積み立てているだけですが,自社株買いもすっかり盛んになりましたので,これとの連関でちょうどいいことであるのかもしれません。

実のところ,確定給付企業年金は現状でも非常に大変であると思われるのですが,この会計制度の変更によって対応が強制的に促されることになりそうです。

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2013年9月 8日 (日)

厚生労働省,厚生年金基金の解散条件の緩和の法施行を前に,先行して10月1日に事前協議制を廃止

厚生年金基金の廃止を促す方向での法改正が行われており,解散要件の緩和が来年4月から施行されますが,それに先立って,法律上の要件とは別に課されていた事前協議制について,廃止されることが明らかになりました。

事前協議制は,解散について厚生労働省に事前に許可を得ておくというものなのですが,半年くらいかかるということで,来年4月の施行時にすぐに新しい要件のもとでの解散をしようとすると,事前協議を始めるのがそろそろ必要ということになるため,廃止ということになった模様です。

株高のため,今解散しておくと,負担が少ないかなくて済むために,解散を促す好機であるということも作用している模様です。

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2012年11月28日 (水)

長野県建設業厚生年金基金脱退訴訟の控訴審に,国が補助参加しないことが判明

JAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の続報です。

厚生年金基金から脱退できる場合について判示をした長野地裁判決に対しては,基金側が控訴をしたのですが,この際,厚生年金保険法の解釈が問題になるとして,国に対して補助参加を求めていました。

しかし,報道によると,厚生労働省は補助参加しないことを決めた模様です。

理由としては,民間同士の争いだからとしている模様です。

この理由だと,あまり国の今後の政策の方針と無関係に形式的に判断されたかのようですが,国は厚生年金基金の制度変更について,基金制度の廃止を打ち出してきたところですので,この政策との関係もあるところでしょう。

上記長野地裁判決の内容については以下の記事もご覧ください。

JAPAN LAW EXPRESS: 厚生年金基金からの脱退を認めた長野地裁判決の補足情報

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2012年10月22日 (月)

厚生労働省,高齢者が健康保険にはいっているが労災保険に入っていない場合に請負等で受託した作業での受傷について,健康保険でカバーする法改正を検討

JAPAN LAW EXPRESS: シルバー人材センターから紹介を受けた仕事の作業中の負傷したところ保険が不適用であったとして,負傷男性の長女が国に慰謝料と協会けんぽに保険適用を求める訴訟を提起の関連情報です。

被扶養者として健康保険に入っている場合に,請負の形で労働して負傷した場合の療養費について,保険の隙間が出ていることを上記記事でお伝えしましたが,厚生労働省は健康保険法を改正して,保険の適用対象とする方向で検討を始めたことが明らかになりました。

労災保険対象外の高齢者ら健保で救済 厚労省、来年法改正へ - 中国新聞

厚生労働省は19日、仕事中にけがをしたシルバー人材センターの高齢者らが労災保険の対象にならない場合、健康保険を適用して救済する方針を固めた。健康保険も労災保険も適用されず「制度の谷間」に落ちてしまう人が治療費の全額自己負担を強いられるケースが相次いだため、対策を協議していた。

厚労省は社会保障審議会医療保険部会での議論を経て、来年の通常国会に健康保険法改正案を提出したい考えだ。

(略)

この報道で行くと,高齢者の場合だけが対象となりそうですが,それだと立法技術的に変なので,インターンシップの学生なども含めることになるのではないかと思うのですが,どうなるのでしょうか。

ちなみにこの制度の谷間になっていしまうこと自体は,それほど滅茶苦茶というわけではなく,国保に入っていればよいはずの話なのです。

健康保険の対象とすると,事故の発生率によりますが,健保財政の一層の悪化につながるために,保険料率の引き上げにつながることが考えられます。救済をしているように見えて,制度をさらに締め付けることになりかねないので,長い目で見るとどうなのかが非常に気になるところです。それよりも労災保険法の適用範囲の観点はどう考えたのかが気になるところです。

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2012年9月26日 (水)

シルバー人材センターから紹介を受けた仕事の作業中の負傷したところ保険が不適用であったとして,負傷男性の長女が国に慰謝料と協会けんぽに保険適用を求める訴訟を提起

テレビでもやっていたらしいのですが,シルバー人材センターで紹介された仕事の作業中に高齢者の男性が負傷をしたところ,保険の適用がなされず治療費が全額自己負担になったということで,協会けんぽと国を相手取って訴訟を提起する事態になったことが明らかになりました。

それだけ聞くと「なぬ」と思ってしまいますが,この男性は長女の被扶養者になっており,長女の会社の健康保険である協会けんぽに入っているようなのです。

すると健康保険法の適用があるということになります(国保ではなく社保という意味)が,健康保険法は業務上災害による傷病を適用除外にしているので,このけがについて保険給付が受けられなかったわけです。

健康保険法

(目的)

第一条 この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

なぜこうなっているかというと,業務上の事由に起因する傷病については,労働者の場合,労災保険法の適用があり,すみわけをしているからです。

しかし,シルバー人材センターの仕事の場合,雇用ではなく請負であり,労働者ではないということ否定しがたいものがあります。そのため,労災保険の適用にならないのです。

すると,大変なことになりそうですが,労働者ではない場合には国民健康保険に入っているはずであり,そちらでカバーされることになるという建前があるのです。

国民健康保険は業務上災害に起因する傷病への適用を排除しておらず,ほかで給付を受けた場合にはそちらが優先するが補充的に適用があることは定めがあります。

この件の男性の場合,雇用契約にないのに社保に入っていたために,隙間に該当してしまったというわけなのです。

そこで,全額負担となってしまったということのようなのですが,訴訟を提起して,国には慰謝料,協会けんぽには保険適用を求める請求をしている模様で,根拠として憲法に言及しており,「高齢者の就労環境が変化しているのに国会が立法を怠った。社会保障をうたった憲法に違反する」としている模様です。

15万人ほど高齢者がこのような形で働いているとのことで,立法事実としてどうなのかが問題となりそうな形成となっています。

しかし,社会保障は立法裁量の色彩が強いこと,立法不作為が違法と評価されるのは選挙権ですらかなりハードルが高いことからいくと,このような構成で行くとなかなか厳しいものが予想されます。

国民健康保険法との比較という観点から主張をすることはありかもしれませんが,高齢者ともなると,後期高齢者になるまでの間ならある意味,健康保険をどうするかは選択できる問題ですので平等の形で話をすることは難しいような気がします。

政策形成訴訟の意義はあるのかもしれませんが,実のところ,構成には考えようがあるような気がします。

余談ですが,報道によると原告はけがをした高齢者の男性ではなくその長女のようなのです。どういう法的根拠でこうなっているのでしょうか。成年後見等になっているのでしょうか。この点については情報不足でよくわからないところがあります。

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2012年9月13日 (木)

長野県建設業厚生年金基金に対し,長野地裁判決以後,複数の事業所が脱退の申し入れをしていることが明らかに

JAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の関連情報です。

この長野地裁判決以後,長野県建設業厚生年金基金に対して脱退の申し入れをした事業所が複数出ていることが明らかになりました。

基金側は,代議員会に諮ることもしない構えであり,一方で先日の長野地裁判決に対して控訴して,厚生労働省の参加を得るため,国に訴訟参加してもらうための訴訟告知をする模様です。

まだ長野地裁の判断はまだ確定していない以上,基金側がさらなる脱退の動きを認めることはできないというのは当然と思われますが,代議員会にもはからない扱いがはたして可能であるかはよくわからない点があります。報道によると,不備があるとしているようなので,脱退の申し入れをすることそのものに要件の欠缺があるのかもしれませんが,雪崩を打って脱退の動きが強まって来るのに対して,脊髄反射のような反応をすると,さらなる法的紛争を生むかもしれません。

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2012年8月25日 (土)

厚生年金基金からの脱退を認めた長野地裁判決の補足情報

昨日取り上げましたJAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の続報です。

本日の報道で,長野地裁判決の判示内容がやや詳細に判明しましたので取り上げます。

長野地裁判決は,無限定に事業所が厚生年金基金から脱退する自由があることを認めたわけではなく,やむを得ない事由がある場合に限定している模様です。そのやむを得ない事由の例示として,事業の不振などを挙げており,基本的には社会保険であることから脱退の自由は制限されることを前提としていることは確かであるようです。

そのうえで,「基金との信頼関係の破壊が重要な要素となる」としており,信頼関係破壊がやむをえない事由の要素となるとの枠組みになっているようです。

まるで賃貸借の法理のようになっていますが,まったく先例のない分野についてかなり大胆な法理を組み立てたといえそうです。

この裁判例自体は,立法の不備についても指摘しており,厚生年金保険法の改正を促しているようなのですが,訴訟の問題だけで考えますと,このようにかなり独自の法理を打ち立てた内容になっていると,上級審で争われた場合に覆されるか,結論は維持されるにしても法的構成が修正されることがありうるところです。

一つの厚生年金基金がそこまで争うのかはわからないところですが,政策形成的な意義はともかくとして,この裁判例の安定性は微妙であるかもしれません。

裁判例情報

長野地裁平成24年8月24日判決

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長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容

AIJの余波でもあるのですが,厚生年金に大きな衝撃をもたらす裁判例が出ました。

AIJの件等によって財政が悪化していた長野県建設業厚生年金基金に加入している事業所が,これを懸念して脱退を求めたところ,基金の意思決定機関である代議員会で否決されたため,脱退を求めて提訴したところ,長野地裁は脱退を認めました。

厚生年金基金脱退、認める判決…全国に影響か : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

長野県建設業厚生年金基金が脱退を認めなかったのは不当として、長野県の建設会社が脱退の確認を求めた訴訟の判決が24日、長野地裁であり、山本剛史裁判長は原告の請求を認めた。

(略)

会社側は、特別掛け金を支払うなどの手続きをすれば、代議員会の議決はなくても脱退できると主張。基金側は、加入企業の脱退が相次ぐと基金が存続できなくなるため、「脱退の自由」は制限されるとしていた。

(2012年8月24日13時36分  読売新聞)

財政の悪化している厚生年金基金は多いため,雪崩現象が発生する恐れがあり,影響が注目される裁判例といえます。

法的な整理ですが,厚生年金保険法では,基金から出て行ってくれという場合の脱退要件については規定があるのですが,加入している側からの脱退について規定を欠いています。そこで,事業所の加入があるたびに規約を変更しているという形をとっていることの逆として,規約変更が認められないと脱退させないという扱いがされています。

この根拠は,上記報道の引用中に記載がありますが,保険が成立しなくなってしまうので脱退の自由が制限されるのだというところにあります。

これは実務の通説的理解であると思われ,これによって身動きが取れなくなっている事業所は多数あると思われます。

非常に影響が大きくなりうる判決と言えると思われます。

また,このような法律の規定の仕組みは,健康保険でも同じになっており,この厚生年金基金のことは健康保険組合にもそのまま妥当しうる点があります。

この点からも非常に重い裁判例であり,控訴されるのかも含めて,今後が注目されます。

裁判例情報

長野地裁平成24年8月24日判決

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2012年4月23日 (月)

名古屋高裁,国が10年遡って障害基礎年金の受給資格を認めた女性に対して会計法を根拠に5年分しか支給しなかったため,女性が不払いの分の支払いを求めた訴訟の控訴審で請求を認容

年金は自分で請求しないともらえませんが,受給資格があってももらっていなかった分は,会計法に定めのある公法上の債権の時効の問題として5年分を超えると消滅するという運用がされています。

この運用によって,10年さかのぼって受給資格の認定を受けながら,5年分しか障害基礎年金を支給されなかった女性が,不支給であった分の支給を求めた訴訟の控訴審判決で,名古屋高裁は請求棄却だった一審判決を取消して,請求を認めました。

名古屋高裁の理由は,上記のような年金は請求をしないと盛られない仕組みに着目して,認定されてから給付を受けられるので,その時点から時効が起算されるというものです。

まず,民法的な視点から考えても,この理由の当否も問題となりそうです。

さらに,実務の扱いと全く異なり大変衝撃的な内容ですので,国側の今後の対応が注目されます。

裁判例情報

名古屋高裁平成24年4月20日判決

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